コラム

ネット空間に溢れる「インプットなきアウトプット」の弊害

2023年03月03日(金)11時15分
アウトプット中毒

匿名性の高いネット空間には、思慮分別のない暴論が溢れている(写真はイメージです) Chainarong Prasertthai-iStock

<理性より感情、熟考より直感──リアルタイムでの反応を強いるネット空間には「アウトプット中毒」が溢れ、インプットが置き去りにされる>

ニュースの見出しを見ただけで、内容をじっくり読まずにコメントしたくなる「アウトプット中毒」が顕著のようだ。「スマホ中毒」とも相まって、ネット上での発言をやめられない日々が続く依存傾向である。

「SNS中毒」も深刻らしい。アメリカのジョージア大学の研究によると、SNSへの中毒症状が強ければ強いほど、「ネットいじめ」を行う傾向も強いという。ネットいじめとは、個人攻撃、差別的発言、誹謗中傷の拡散、社会的排除の扇動、個人情報の暴露などのことだ。日本でも、ネットいじめによって、何人もの人が自殺に追い込まれている。

自殺をも誘発してしまうアウトプット中毒。その背景には、ウェブニュースやSNSのスピードが加速し、リアルタイムでの反応を強いられていることがある。リアルタイムで反応している限り、インプットする時間的余裕はない。インプットに努めれば、自然と冷静でいられ、ネットいじめにも手を染めにくくなるが、そうはさせてもらえない。その結果、インプットなきアウトプットは、そのほとんどが社会にネガティブな結果をもたらす。

日本と同調圧力の歴史

今でこそアウトプット中毒が顕著だが、かつて日本ではアウトプットの欠乏こそ問題だった。インプットを押し付ける同調圧力が強かったため、アウトプットしようとすれば、村八分になりかねなかった。その結果、学校では教師による一方通行の授業が続き、会社では形式的・儀式的な会議が普通だった。アウトプットできるのは、集団の仕切り役に限られていたわけだ。

しかし、それでは国際競争に勝てる人材を輩出できないし、個性の尊重や人権がないがしろにされてしまう。そこで、海外からアクティブ・ラーニングやプレゼンテーションなどが輸入され、インプットとアウトプットのバランスが図られた。もっとも、相変わらず同調圧力は強いので、海外と比べればアウトプット不足は否めない。

そもそも、同調圧力の起源は4万年前にまで遡る。アフリカで長い時間をかけてサルから進化したヒト(ホモ・サピエンス)はやがて世界に広がっていき、4万年前ごろに日本列島に移り住むようになった。アフリカで戦いに敗れたのか、あるいは争うことが嫌いだったのか、いずれにしても、あるグループがアフリカを後にして極東にまでやってきた。これが日本人の祖先である。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国務長官、NATO会議欠席へ ウ和平交渉重大局面

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 運

ワールド

感謝祭当日オンライン売上高約64億ドル、AI活用急
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story