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日本のAI犯罪予測システムに期待できない理由
「犯罪機会論」はAIと好相性(写真はイメージです) seamartini-iStock
<予測システムの命運を握るのは、入力層と出力層に関するデータの的確性だ。「質」を揺るがす3つの不安要素とは?>
街頭犯罪の発生をビッグデータとAI(人工知能)を用いて予測するシステムがある。すでに欧米では普及しているが、日本でも導入が始まった。しかし、犯罪予測システムの前提である「犯罪機会論」が普及していない日本で、システムを構築しようとすれば、基礎工事ができていないわけだから、崩壊の危険があると言わざるを得ない。
ビッグデータからスマートデータ、インフォメーションからインテリジェンスへ
そもそも、コンピューターを活用した犯罪予測システムは、米国ニューヨーク市警の「コムスタット」が始まりである。その名称(COMP + STAT)は、コンピューター(COMPuter)と統計学(STATistics)からなる合成語だ。
「コムスタット」が導入された1994年は、「防犯環境設計」と「割れ窓理論」を双璧とする「犯罪機会論」が完全に浸透した時期である。当時、ニューヨーク市警を導いていたのは、「割れ窓理論」の提唱者、ラトガース大学のジョージ・ケリング教授と、ケリング教授を慕うウィリアム・ブラットン警察本部長だ。
その後、「犯罪パターン理論」の提唱者、サイモンフレーザー大学のブランティンガム夫妻の教え子であるバンクーバー警察のキム・ロスモ警部が「地理的プロファイリング」を開発するなど、「犯罪機会論」に進展が見られた。ちなみに、ロスモ警部はカナダで最初に犯罪学の博士号を取得した警察官(1995年)だ。
こうした動向を踏まえ、警察の世界では、「ビッグデータ(大量の情報)からスマートデータ(賢い情報)へ」「インフォメーション(情報)からインテリジェンス(知恵)へ」といったシフトが加速し、「インテリジェンス主導型警察活動」や「予測型警察活動」が盛んになった。
例えば、米国テネシー州のメンフィス市警では、2006年に「ブルークラッシュ」が始まった。ブルー(Blue)は警察官を意味し、クラッシュ(CRUSH)は「統計履歴を活用した犯罪減少」(Crime Reduction Utilizing Statistical History)の頭文字である。この犯罪予測システムは、メンフィス市警の犯罪分析課と、メンフィス大学のリチャード・ヤニコウスキー准教授とのパートナーシップの下で開発された。
現在、開発が進む犯罪予測システムは、基本的に、脳のニューラルネットワーク(神経回路網)を模倣したディープラーニング(深層学習)を採用している。もっとも、犯罪予測システムには、仮説を検証する(関連を分析する)伝統的な統計手法を用いるものもある。
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