コラム

英フィナンシャル・タイムズ記者が他紙のZoom会議を盗み聞き?

2020年05月08日(金)13時35分

イブニング・スタンダード紙の広報は、「FTのジャーナリストがプライベートな Zoom会議に非合法なアクセスをするのは、許容できない」。

FTはガーディアンなどにコメントを出していないが、記者は停職状態となっているという。

ニュースサイト「プレスガゼット」に掲載された記事の中で、メディア法専門家デービッド・バンクス氏は、今回のFT記者の行為はコンピューター誤使用法に違反する可能性があるという。

しかし、ほかの法律専門家は、もし会議へのリンクが記者に送られてきて記者がこれにアクセスした場合は刑事犯罪にはならないのではないか、という。また、100人ほどのスタッフが出ていた会議は果たして、「プライベートな(私的な)集まり」と言えるのかどうか。

いずれにしても、新聞界の自主規制・監督機関「IPSO」による編集規定には違反する可能性がある、とプレス・ガゼットは指摘している。FTはIPSOに加盟していないが、これを順守することになっているという。

IPSOの編集規定によれば、隠しカメラの使用や私的なあるいは携帯電話の会話・メッセージ・電子メールを秘密裏に読む・聞くなどの手法を使う場合、それが公益にかない、ほかの手段がなかったことを正当化する必要がある。

ディ・ステファノ記者はツイッターで10万人以上のフォロワーを持ち、今年1月、バズフィードからFTに移動したばかり。最後の投稿は4月25日付である。

ここまでの報道では、ディ・ステファノ記者が会議を聞いていた可能性は高いようだが、誰しもがまず疑問に思うのは「一体どうやって、参加できたのか?」ではないだろうか。

セキュリティ面で疑問符がつくようになったZoom会議だが、英国では閣議や議会討論の場も含め、このソフトが広く使われている。

多くの場合、ホストから送られたURLをクリックすれば自動的につながるが、インディペンデント側はセキュリティを強化する必要があるのではないか。米FBIは、いたずら目的の利用者がプライベートな会議や授業に侵入し、会議とは関係がない画像などを表示する「Zoom爆弾」に警告を発している。

ディ・ステファノ記者の行動について、FT側がどのような説明がするかが注目だが、インディペンデント側のあるいはZoomのセキュリティの脆弱さを改めて示すことになるかもしれない。

(英国時間で、28日午前11時時点での情報を基にしました。)

kobayashi_ft3.jpg

ツイッターで退社を発表した(ツイッター画面より)

追加:5月1日、ディ・ステファノ記者は、ツイッターを使ってこの日付でFTを退社したことを公にした。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税、国内企業に痛手な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story