コラム

カトリック系初の北アイルランド首相が誕生...オニール氏の下でアイルランド「再統一」論が熱を帯びる

2024年02月06日(火)18時04分

オニール氏の父親はIRA暫定派として囚われの身となった。オニール氏はIRAの爆弾テロの正当性を支持し、紛争中に亡くなったIRAのメンバーに敬意を表している。アイルランド共和主義の伝統を破ってエリザベス女王の国葬やチャールズ国王の戴冠式に出席したことで称賛されたが、過去にIRAの記念式典に出席したことで批判を浴びたこともある。

英紙フィナンシャル・タイムズは2月4日付社説で「北アイルランドの象徴的瞬間だ。しかし今、必要なのは『再統一』論争ではなく正常な政府だ」と釘を刺す。「アイルランドの南北再統一を唱えるナショナリスト初の首相、北アイルランドが英国の一部だと強硬に主張するDUPの副首相が誕生するとは、ベルファスト合意の時には想像だにしなかった」という。

再統一より先に取り組む課題は山積み

北アイルランドとアイルランド国境の両側でシン・フェイン党は躍進し、南北再統一につながる住民投票が行われる可能性の議論は一段と熱を帯びる。シン・フェイン党のメアリー・ルイーズ・マクドナルド党首は「チャンスの10年だ。与えられた再統一のチャンスは計り知れない。誇張しても言い過ぎではない」とアイルランドの公共放送に強調した。

昨年12月、アイルランド紙アイリッシュ・タイムズに掲載された北アイルランドでの世論調査によると、再統一に賛成は30%で、反対は51%にのぼった。しかし、再統一を問う住民投票を受け入れることはほぼ無理と答えたユニオニストは前年の32%から23%に減っていた。カトリック系の人口割合が増えるにつれ、秤は自然と再統一へと傾いていく。

「権力分立政府の復活は財政と公共サービス、特に医療の絶望的な状況を改善するチャンスだ。英国政府から33億ポンド(約6200億円)の資金援助が受けられる。EUと英国の両市場への特権的なアクセスというEU離脱後の北アイルランド独自の立ち位置から恩恵を受けられる。再統一の話は時期尚早だ」(前出のフィナンシャル・タイムズ紙社説)

自治政府が2年間機能停止していたことで問題は山積している。英紙タイムズ(2月3日付)は(1)崩壊しつつある医療サービス(2)公共セクターの賃金上げスト(3)経済機会(4)カトリック系シン・フェイン党とプロテスタント系DUPの権力分立――という4つの課題を挙げている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ナスダック連日最高値、アルファベット

ビジネス

NY外為市場=ドル全面安、FOMC控え

ワールド

米軍、ベネズエラからの麻薬密売船攻撃 3人殺害=ト

ワールド

米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行動なけ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story