コラム

夢と消えた「中国の60兆ドル金融市場」 米中対立で「儲け話が暗転」...国家安全保障を最優先する習近平

2023年08月31日(木)17時27分

香港ウオッチの共同設立者ジョニー・パターソン氏は「MSCIエマージング・マーケット・インデックスに採用されている13社は中国当局のウイグル族強制労働や収容所建設に関与していることが知られている。国際的な金融機関が人権やESG(環境・社会・ガバナンス)の『S(社会)』をどれほど真剣に受け止めているかという深刻な疑問が生じる」と語る。

カナダの年金制度投資委員会(CPPIB)や公務員年金基金、大学基金、ブリティッシュコロンビア州、オンタリオ州、アルバータ州、ケベック州の年金基金もMSCIエマージング・マーケット・インデックスなどの「インデックス・ファンド」を通じて、中国当局の人権弾圧に加担していることが濃厚な企業に投資していた。

「次は民主主義の自由が奪われる」

英投資プラットフォーム会社AJベルの取締役会議長を務めたヘレナ・モリッシー氏は「西側諸国はすでに中国に経済的に依存するようになり、多くの人々にとって撤退は不可能と思えるのかもしれない。しかし敗北主義は非常に危険だ。今日行動を起こすのは難しく思えても、明日はもっと難しくなる」と警鐘を鳴らしている。

00年3月、当時のビル・クリントン米大統領は「世界貿易機関(WTO)に加盟することで、中国は単にわが国の製品をより多く輸入することに同意しているのではなく、民主主義が最も大切にしている価値観の一つである経済的自由を輸入することに同意しているのだ」との考えを示した。

「中国が経済を自由化すればするほど、中国国民の潜在的な能力、すなわち自発性、想像力、卓越した企業精神がより完全に解放されることになる」ともクリントン氏は強調した。しかし「そんなことは起こっていない。その代わり、西側は産業力を手放したのだ。次は民主主義の自由が奪われるかもしれないと懸念するのは突飛な話ではない」(モリッシー氏)

20年、中国の習近平国家主席は外資系保険会社が中国保険市場の4分の3を占める生命保険を提供する100%出資会社を設立したり、外国人が全額出資の投資信託運用会社を設立したり、海外企業が先物取引を行うために独自の事業体を設立したりできるようにする金融市場の開放政策を進めた。

19年の地方銀行を皮切りに、証券会社、投資信託会社、生命保険会社、先物取引会社の完全な外国人所有を許可しだしたため、「中国の60兆ドル金融市場」にブラックロック、JPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックス、HSBC、バンガード、シュローダーといった米英の巨大マネーが一斉になだれ込んだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

中国過剰生産、解決策なければEU市場を保護=独財務

ビジネス

MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに大規

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story