コラム

「しゃもじ」批判では分からない...岸田首相「電撃訪問」、ウクライナから見た「効果」

2023年04月01日(土)19時08分
日本からウクライナに寄付された車いす

キーウ近郊のイバンキフ村に届けられた日本の車いす(3月15日、FFU提供)

<「必勝しゃもじ」を野党は批判したが、日本の首相としてウクライナを訪れたことには、国内企業に行動を促す意味でも大きな意味が>

[ロンドン]今年、主要7カ国(G7)の議長国を務める岸田文雄首相は3月21日、ウクライナを電撃訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。日本の首相が戦地を訪れるのは戦後初めてのことである。岸田首相はロシア軍による虐殺現場のブチャを訪れ、犠牲者に花を手向け、サバイバーたちの声に耳を傾けた。

岸田首相が「必勝」と書かれた地元・広島名産、木製の「必勝しゃもじ」をゼレンスキー大統領に贈ったことについて、立憲民主党の石垣のりこ氏は「選挙やスポーツではない。日本がやるべきことはいかに和平を行うかだ。戦場に行って『必勝』というのはあまりにも不適切だ」と批判した。野党から集中砲火を浴びた。

「戦争中の緊迫した国家の元首に対して、緊迫した外交の中で贈るのは違和感が拭えない。敵を召し捕るという文脈で贈ったということならば、ウクライナに『もっと戦え』『必ず勝て』とメッセージを送るということなのか。二重に違和感がある」(立憲民主党の泉健太代表)。「お気楽過ぎるんじゃないか」(日本維新の会の馬場伸幸代表)

宮島観光旅行まとめブログなどによると、世界文化遺産の厳島神社がある宮島は江戸時代から「神のご加護がある」としゃもじが名産となり、明治時代、日清、日露戦争に赴く兵士が厳島神社を訪れ、しゃもじを奉納するようになった。「敵を召し捕る(飯とる)」と縁起を担いだからだ。高校野球の広島県代表や、受験、選挙を応援する時に使われるようになった。

G7で一番遅かったウクライナ訪問

これに対し岸田首相は「ウクライナの人々が祖国や自由を守るために戦っている努力に敬意を表したいし、ウクライナ支援をしっかり行っていきたい」と説明した。セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ大使は24日、「これからは、日本からの贈り物として『必勝しゃもじ』がとても喜ばれます。私はまだ持っていませんが」とツイートした。

チェコやポーランドなどの首相に続いて、英国のボリス・ジョンソン首相(当時)がキーウを電撃訪問したのは昨年4月。翌5月にはウクライナ系移民が多いカナダのジャスティン・トルドー首相、6月にエマニュエル・マクロン仏大統領、オラフ・ショルツ独首相、マリオ・ドラギ伊首相(当時)、今年2月にはジョー・バイデン米大統領も訪問した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、次期5カ年計画で銅・アルミナの生産能力抑制へ

ワールド

ミャンマー、総選挙第3段階は来年1月25日 国営メ

ビジネス

中国、ハードテクノロジー投資のVCファンド設立=国

ワールド

金・銀が最高値、地政学リスクや米利下げ観測で プラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story