コラム

中国は警戒を露わに...AUKUSによる豪への「原潜」協力は、本当にコストに見合うか

2023年03月15日(水)11時53分

「英国にとって不可欠なのは欧州の安全保障」

英紙ガーディアンのダン・サバー国防・安全保障エディターも「スナク氏は中国に焦点を当てているのかもしれないが、英国にとって不可欠なのは欧州の安全保障」と題したコラムで「この1年の出来事はロシアが脅威という考えをより強固にした。インド太平洋における英国の小さな軍事的プレゼンスをさらに高めることは費用対効果が良いとは言えない」と書く。

米英豪首脳会談に合わせて発表された英国の「安全保障・国防・開発・外交政策の統合レビュー」の2023年改訂版で中国は「体系的な競争相手」から「進化し、時代を画する挑戦」に格上げされた。しかし、サバー氏は「英国の軍事力への慎重な再投資はウクライナや北大西洋条約機構(NATO)最前線国の自衛支援に集中すべきだ」と警告する。

英国の国防費がGDPに占める割合は1980年代から半減。そんな中で21年には最新鋭空母クイーン・エリザベスを中心とした打撃群が極東に展開し、日米のインド太平洋戦略に加わった。しかし英スカイニュースによると、米軍の将軍はベン・ウォレス英国防相に「陸軍の削減により英国はもはやトップレベルの戦闘力とはみなされない」と内々に伝えたという。

英有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のニック・チャイルズ上級研究員(海軍力・海上安全保障)も「AUKUSの3カ国はオーストラリアの潜水艦能力を大幅に向上させる新型原潜設計計画に注目しているが、その実現は困難であり、20年先の話になるかもしれない」と警鐘を鳴らす。

インフレと生活費の危機に苦しむ英国がインド太平洋に関与し続けることに国民の理解を得るのは難しい。次期総選挙で保守党から労働党に政権交代すれば英国は対ロシアという欧州の安全保障に集中するという極めて現実的な選択肢をとることになる。米中の大国間競争は欧州の同盟国に複雑な波紋を投げかけている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ステファニク下院議員、NY州知事選出馬を表明 トラ

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、11月速報値は約3年半ぶ

ワールド

イラン大統領「平和望むが屈辱は受け入れず」、核・ミ

ワールド

米雇用統計、異例の2カ月連続公表見送り 10月分は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story