コラム

ウクライナ侵攻、もう1つの「厄災」...アフリカ「資源争奪戦」の欺瞞に満ちた実態

2022年11月15日(火)17時03分

221115kmr_fcl03.png

(同)

日本のガス資金の最大の受入国はモザンビークとロシアだ。19~21年、日本はモザンビークと82億ドル(約1兆1400億円)を融資する契約を結んだが、資金の99.5%は採掘と輸出に関連した施設に費やされた。

ロシアとも化石燃料事業に48億ドル(約6700億円)の公的資金を充てる契約を締結したが、「一部はウクライナ侵攻の資金に充てられている」(報告書「日本の汚い秘密」)という。

221115kmr_fcl04.png

(同)

同報告書によると、モザンビークの海底ガス田開発では数百世帯が強制移転させられた。漁業コミュニティーも退去させられ、それまでの収入を奪われた。国際協力銀行(JBIC)とJOGMECが総額60億ドル(約8300億円)の融資と出資を行い、日本貿易保険(NEXI)が20億ドル(約2800億円)の保険を引き受けている。

環境活動家「日本政府はクリーンエネルギーへ支援をシフトせよ」

「私は20年1月、東京のJBICに行って何が起きているのか状況を説明しました。プロジェクトがいかにひどいものであるか、当時、反乱が起きていたことを説明しました。しかし彼らは完全に無視しました。日本国民へのメッセージは日本政府の責任を追及し、モザンビークのガスプロジェクトに対する資金提供を中止することです」とバトナガルさんは言う。

「日本が来年、ホスト国になる先進7カ国(G7)は気候危機に対する歴史的な責任を受け入れる必要があります。自国内での化石燃料の使用を止め、海外の化石燃料への資金提供を止めるためにできる限りのことをする必要があります。モザンビークが再生可能エネルギーに移行するために必要な気候変動資金を提供する必要があります」(バトナガルさん)

国際エネルギー機関(IEA)によると、アフリカには世界人口の6分の1が居住するが、世界のエネルギー消費量の6%未満、世界の累積排出量の2%を占めるに過ぎない。電力にアクセスできない何億人もの人々に電力アクセスを提供するとともに経済成長を刺激し、持続可能な開発目標の達成を支援することが急務になっている。

アフリカは世界のエネルギーシステムがネットゼロの未来へ移行する際、主導的な役割を果たす可能性を秘めているとIEAは指摘する。太陽光発電や風力発電の可能性が大きいだけでなく、クリーンエネルギー技術に必要な多くの鉱物やレアアースも埋蔵している。

221115kmr_fcl05.jpg

フレンズ・オブ・ジ・アース・ジャパンの深草亜悠美さん(筆者撮影)

フレンズ・オブ・ジ・アース・ジャパンの深草亜悠美さんは「気候危機が日々深刻化する中、日本は世界最大の化石燃料への資金提供国として際立っています。このことが気候危機を悪化させ、人々の生活を破壊しています。無駄にしている時間はありません。日本政府は今すぐクリーンで民主的なエネルギーシステムへ支援をシフトしなければなりません」と訴える。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story