コラム

イギリスを襲った史上最強の「熱波」...社会・経済を押しつぶす「真のコスト」は?

2022年07月20日(水)17時21分

「極端な暑さは地球規模の気象パターンの変化による気候変動の中で発生するものだ。しかしここ数十年の間、これらの現象の頻度、期間、強度が増加していることは、観測された地球温暖化と明らかに関連しており、人間活動に起因すると考えられる。温暖化の結果、極端な暑さが深刻化することはすでに観測記録から明らかだ」(英気象庁)

英オックスフォード大学のキャメロン・ヘップバーン教授(環境)は「溶けた空港の滑走路から疲労困憊した現場スタッフまで猛暑がもたらす経済的影響には目を見張る。化石燃料からの移行コストが高すぎると言う人もいるが、その逆だ。気候変動に対して無策でいることの真のコストに経済も社会も耐えられなくなる」と語る。

再生エネルギーへの投資で異常気象のリスク抑制を

英レディング大学のハンナ・クローク教授(自然災害)は「イギリスの歴代気温記録は更新されただけでなく、完全に抹消された。39度のマークはイギリスの気温記録として存在することすらないだろう。なぜなら、われわれは汗だくになりながら一気に40度台まで急上昇してしまったからだ」と指摘する。

「昨年、北米で記録的な暑さが、それまでの最高気温を5度も上回った地域があったように、これは珍しいことではない。大地や植生と大気の相互作用から、今回のような状況でいったん熱が蓄積され始めると、加熱の悪循環に陥る。サハラ砂漠からの熱風と温室効果ガスの蓄積による地球の温暖化が加わり、イギリスの気温が記録的に上昇する条件がすべて整った」

「この現象は事前によく予測されていた。今月2日にはイギリスで40度の気温が発生する可能性があると予測された。 その後、予測は記録的な熱波が到来することをますます確実なものにしていった。このことは気象コンピューターモデルが、実際の物理的状況をうまくシミュレートしていることを示している」とクローク教授は評価する。

風力や太陽光などの再生エネルギーへの投資は雇用を増やし、エネルギーコストを下げ、異常気象などの影響を受けるリスクを抑えることができる。英政府は今年、新築住宅や介護施設などの居住用建物についてオーバーヒートのリスクを抑えるように設計・建設することを義務付けている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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