コラム

オミクロン株の倍加時間は2.5~3日 都市封鎖に逆戻りの恐れも 英政府は対策を強化

2021年12月10日(金)11時10分
3度目のコロナワクチンを接種するボリス・ジョンソン英首相

コロナワクチン3回目の接種を受けるボリス・ジョンソン英首相(12月2日) Paul Edwards/Pool via REUTERS

<オミクロン株の急速な流行によって病院は満杯となり、医療や介護の現場が大きな負担を強いられることが懸念される>

英報告書「最悪だった1月よりはるかに大きな感染のピークが来る」

[ロンドン発]感染力が強く、ワクチン接種による免疫を回避する新型コロナウイルスの変異株オミクロンの感染者数が2.5~3日で倍(倍加時間)になっていることが英政府の発表で分かった。デルタ株の倍加時間はコロナ規制が撤廃される前の6月時点で11日。オミクロン株の流行で医療が再び逼迫し、ロックダウン(都市封鎖)に逆戻りする恐れが出てきた。

英政府の非常時科学諮問委員会(SAGE)モデリンググループの報告書は「南アフリカにおけるオミクロン株の感染力と免疫回避の初期推定値をイギリスに当てはめると今年1月よりはるかに大きな感染のピークが来る恐れがある」と警告する。1月には1日の新規感染者は7万6千人を超え、4千人以上が入院し、死者は1300人を突破する最悪の事態となった。

「オミクロン株の感染拡大のスピードは速く、南ア・ハウテン州では約3日で倍増し、地域全体に広がっている。自然感染とワクチン接種で70%以上が免疫を持つと考えられる集団で感染数が過剰に観測されたことから、何らかの形で免疫が低下している恐れが強いと考えられる」と報告書は分析する。

kimura20211210092001.png
南アでの感染状況(英政府資料より)

「イギリスでここ数カ月、患者数、入院者数、死亡者数が比較的安定している理由の一つは(ワクチン接種や自然感染で免疫が獲得され)住民のコロナに対する感受性が低くなっていることがある。オミクロン株の免疫回避により入院を防ぐワクチン効果が例えば96%から92%に低下した場合、入院から保護されないワクチン接種者の数が事実上2倍になる」

kimura20211210092002.png
英イングランドにおけるオミクロン株の感染状況(英政府資料より)

「現在、重症化に関するデータはないが、オミクロン株の重症度がデルタ株の半分であったとしても膨大な数の感染者が医療や介護の現場に多大な負担をかけることになる。オミクロン株の強い感染力と免疫回避を組み合わせた場合、再生産数(R)を1以下に抑えるためには非常に厳しい対策が必要となる可能性が高い」という。

英首相「南アでは入院患者数は1週間で倍に」

オミクロン株の症例がイギリスで初めて確認された先月27日、ボリス・ジョンソン首相はアフリカ南部諸国からの入国禁止、濃厚接触者の自己隔離、店内や公共交通機関でのマスク着用、3回目接種の対策を打ち出した。今月8日には「指数関数的な感染拡大の無慈悲な論理は入院患者数の大幅な増加、死亡者数の増加につながる」とプランBを発動した。

「南アフリカでは入院患者数が1週間で約2倍になっている。オミクロン株が以前の変異株より症状が軽いとまだ断定できない。ウイルスの拡散を遅らせることで、より多くの人、高齢者や社会的弱者に3回目の接種を行う時間を確保することができる。その間にオミクロン株に関する重要な未解決問題の答えを得る必要がある」とジョンソン首相は強調した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ボルソナロ氏長男、穏健政策訴えへ 出馬意向のブラジ

ビジネス

11月の基調的インフレ指標、加重中央値と最頻値が伸

ワールド

米、ナイジェリア上空で監視飛行 トランプ氏の軍事介

ビジネス

仏、政府閉鎖回避へ緊急つなぎ予算案 妥協案まとまら
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story