コラム

オミクロン株の倍加時間は2.5~3日 都市封鎖に逆戻りの恐れも 英政府は対策を強化

2021年12月10日(金)11時10分

プランBとして(1)できる限り在宅勤務(2)マスク着用を劇場や映画館などに拡大(3)ナイトクラブ、大規模イベントへの入場時にワクチンパスポート提示――の強化策が導入された。しかしオミクロン株の倍加時間があまりに短いため、これまでの検査・隔離・濃厚接触者の追跡など感染拡大の防止手段が全く役に立たない懸念も膨らむ。

英バーミンガム大学のアレックス・リクター教授(臨床免疫学)はこう語る。

「政府が懸念するのは当然だ。単に患者数の増加だけではなく、オミクロン株はワクチンや抗体療法を回避する恐れがある。より多くの変異株が出現する可能性が高いことも考慮しなければならない。2回目の接種から4カ月が経過するとワクチンによる免疫力は大幅に低下するため、3回目の接種がオミクロン株に対する防御になることを期待する」

ロザリンド・フランクリン研究所所長で、オックスフォード大学のジム・ネイスミス教授(構造生物学)はこう解説する。

「ウイルスには2つの感染速度、Ro(ワクチン未接種者や感染者における感染速度)とRt(イギリスのワクチン接種者と感染者における現在の広がり)がある。Rtが1を超えると感染が拡大する。南アではオミクロン株のRtはデルタ株のそれよりも高く、初期のデータではイギリスでも同様であることが示唆されている」

「人類最速のスプリンター、ウサイン・ボルトが重りを持って膝まで泥の中(ワクチンによる免疫)につかって走るとする。一方、私(免疫を回避するオミクロン株)がトラックをジョギングするとしたらボルトに100メートル以上の差をつけられる。オミクロン株のリスクは病院が満杯になるほど急速に広まり、医療に負担をかけることだ」という。

官邸でのクリスマスパーティー疑惑で英首相の信任揺らぐ

ロンドンやイングランド南東部で厳しい接触制限が実施されていた昨年12月、首相官邸の職員がクリスマスパーティーを開いていた疑惑が浮上。官邸は全面否定したにもかかわらず、当時、導入される予定だった米ホワイトハウス式報道官の模擬会見で「官邸でクリスマスパーティーがあったというツイッターは本当か」と質問するビデオが暴露された。

その中で「パーティーではなく、チーズとワインだった」という冗談も飛び交い、「この架空のパーティーはビジネスミーティングだった。社会的には距離を置いていた」と答えていた元BBCプレゼンターの報道官に社会の批判が集中し、辞任に追い込まれた。1日当たりの死者は今でも100人を超えることからジョンソン首相への信任も大きく揺らいでいる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story