コラム

アフガンの20年戦争が残した負の遺産「日本も難民受け入れを」

2021年09月02日(木)11時04分
国外退避するアフガン父子

オーストラリア空軍の輸送機で国外退避するアフガン母子(8月24日) SGT Glen McCarthy/ Australia's Department of Defence/REUTERS

<タリバンの弾圧と極貧を逃れ、冷蔵コンテナでドーバー海峡を渡った元アフガン難民は開口一番こう言った。「アフガンへの3番目の援助国だった日本はイギリスや他国と同じように難民を受け入れてほしい」>

[ロンドン発]アメリカ史上最長の20年に及んだアフガニスタン戦争に終止符を打ったジョー・バイデン米大統領は8月31日「今こそ戦争を終わらせる時だ」と強調した。過激派組織「イスラム国」(IS)の自爆テロで米兵13人を含む170人超の犠牲を出したものの、同盟国と協力して12万3千人以上の民間人を脱出させた作戦を「並外れた成功」と自画自賛した。

しかし「20年戦争」が残した負の遺産はあまりにも大きい。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、出身国別に見た難民数はシリアが最も多く670万人、ベネズエラが400万人、3番目がアフガンで260万人だ。米軍撤退に伴う戦闘の激化でアフガン国内の避難民はすでに350万人近くに達し、年内に最大50万人の難民が発生する恐れがあると予測されている。

2015年に100万人以上の難民が押し寄せた欧州難民危機の再現を恐れるドイツのホルスト・ゼーホーファー内相は「30万から500万人の難民申請が見込まれる」と警戒を強めている。9月26日に総選挙を控えるドイツだけではなく、欧州にとって難民問題は政治的な致命傷になる危険性をはらんでおり、アフガン難民の受け入れには慎重だ。

20210830_144710.jpeg
「アフガニスタン・中央アジア協会」を発足させたノラルハク・ ナシミさん(筆者撮影)

アフガンでは人口の3分の1以上の1400万人が飢餓に苦しんでいる。5年間で2万人の受け入れを表明したイギリスで01年に難民定住を支援する慈善団体「アフガニスタン・中央アジア協会」を発足させたノラルハク・ ナシミさん(54)はイスラム原理主義武装勢力タリバンが首都カブールに迫った8月中旬以降、1日も休まず、支援活動に取り組んでいる。

在アフガン・カナダ大使館が主宰する男女共同参画のプロジェクトに参加していた同協会のメンバーもまだ現地に取り残されている。英国内で暮らす難民からアフガンに残してきた家族を心配する相談が1日に電話で1千件、電子メールで8千件も寄せられている。イギリスに到着し、ホテルで自己隔離中のアフガンの人々に支給される物資も続々と集まっている。

妻と生後3カ月の息子ら3人の子供を抱え祖国を脱出

ノラルハクさんは開口一番「アフガンへの3番目の寄付国だった日本政府はイギリスや他国と同じように難民を受け入れてほしい」と訴える。彼自身、タリバンの弾圧を受け、1999年に妻と生後3カ月の息子ら3人の子供を抱え祖国を脱出した元難民である。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド、米国と通商巡り「大きな進展」 米副大統領が

ワールド

情報BOX:ローマ教皇死去、各国首脳の反応

ワールド

プーチン氏側近「米ロの信頼回復必要」、北極圏協力再

ワールド

トランプ氏、国防長官に「全幅の信頼」と報道官 親族
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 2
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 3
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ページを隠す「金箔の装飾」の意外な意味とは?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 9
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 10
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story