コラム

「泥縄式」よりひどい日本のコロナ対策 五輪と首相に全責任を押し付けるのが「科学」なのか

2021年08月27日(金)11時49分
菅首相と尾身会長

「科学」は「政治」に言うべきことを言ってきたのか Kazuhiro Nogi/REUTERS

<イギリスでは、「政治」が決定した政策が発表される時には必ず「科学」の詳細なデータと分析も示される。日本ではどうだったか>

[ロンドン発]「泥棒を見て縄を綯(な)う」という。日本のコロナ対策を見ていると「泥縄式」という言葉が浮かぶ。それよりひどいかもしれない。医療崩壊の瀬戸際なのに確保してあるはずのコロナ病床が使えない。軽症者にもドナルド・トランプ前米大統領が使った高額な抗体カクテル療法を施すという。コロナ危機でどれだけ政府債務を積み上げるのか。

政府コロナ対策分科会の尾身茂会長は8月25日の衆院厚生労働委員会で「五輪がどういうメッセージを出して、人々の意識に影響するかというのが大事だと再三申し上げてきた」と述べ、パラリンピック開催に合わせ再来日した国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長についても「なぜわざわざ来るのか」と苦言を呈した。

「(政府は)私ども専門家の分析より時々やや楽観的な状況分析をされたのではないのか」とも述べた。東京五輪・パラリンピックの1年延期は昨年3月に決まった。菅義偉首相は何度も開催を誓い、五輪開催は日本の国際公約となった。中止や再延期が政権の選択肢になかったとしたら、分科会としてやらなければならないことはたくさんあった。

イギリスではサッカーのUEFA欧州選手権が3分の2の観客を入れて開催された。その際、感染がどれだけ拡大するかが試され、イングランドプレミアリーグは満員の観客に埋められ開幕した。入場するには2回接種済みのワクチンパスポートか直近の検査による陰性証明が必要だ。

感染爆発で自宅待機者が急増

東京五輪に続いてパラリンピックが開催される中、日本ではコロナ感染による療養者が16万7588人に達し、療養先調整中の人数が3万1111人(18.6%)、このうち入院先調整中が1858人にのぼっている。医療崩壊を防ぐためコロナ病床を拡充するとともに、飲食店の屋内営業制限など非医薬品介入の強化で時間を稼ぎ、ワクチン接種を広げるしかない。

夏の甲子園やプロ野球、Jリーグの試合が行われているのに、五輪やパラリンピックは中止という理屈は国際社会には通じない。尾身氏は五輪・パラ開催を批判するなら明確に科学的根拠を示す必要がある。イギリスでは「科学」は政府に十分な科学的知見を分かりやすく伝え、「政治」がそれに基づいて政策を決定するという役割分担がはっきりしている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

百貨店、バレンタイン商戦で物価高対策に腐心 チョコ

ビジネス

中国万科、利払い条件変更で金融機関と合意 四半期ご

ワールド

中国、日本のジクロロシランの反ダンピング調査開始 

ビジネス

独失業者数、12月は予想下回る増加 失業率6.3%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが「手紙配達」をやめた理由
  • 4
    「見ないで!」お風呂に閉じこもる姉妹...警告を無視…
  • 5
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 6
    「悪夢だ...」バリ島のホテルのトイレで「まさかの事…
  • 7
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 8
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 9
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 10
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 10
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story