コラム

日立製英高速列車の亀裂は800車両 応力腐食割れが原因か 日本の製造業に打撃

2021年06月02日(水)19時05分

「ボルスタには車両の蛇行動を制御するヨーダンパーと、カーブを走行する際に生じる車両の傾きを抑えるアンチロールバーから異なる力がかかる。4月にヨーダンパー・ブラケット接続部から亀裂が見つかった時は疲労亀裂(部材内に発生する単位面積当たりの応力が小さくても繰り返し生じることによって亀裂が進展する現象)が疑われたが、普段は使用しないリフティングポイントからも亀裂が見つかったことが問題を複雑にしている」

筆者にこう解説するのは鉄道雑誌モダン・レールウェイズ産業技術編集者ロジャー・フォード氏だ。今年4月、英イングランド北部で列車運行会社ノーザンが運行するスペインの鉄道車両メーカーCAF製車両でもヨーダンパー・ブラケット接続部に亀裂が走り、ヨーダンパー・ブラケットが剥落した。調査の結果、86編成のうち22編成から亀裂が見つかった。

これに続いて日立製の800系でもヨーダンパー・ブラケット接続部に亀裂が見つかり、当初は疲労亀裂が疑われた。運行中にヨーダンパー・ブラケットが剥落すれば最悪の場合、列車が脱線する恐れもある。

フォード氏は「根本的な原因が分からない限り、修理は不可能だ」とみる。日本の鉄道関係者も同じ見方を示した。英メディアは全車両を修理するのに18カ月かかると報じたが、日立レールは「われわれは18カ月と言っていない。乗客の混乱を最小限に抑えるために、修理は通常のメンテナンスサイクルに合わせている」と述べるにとどめた。

kimura210602_point.jpg

車両本体下に溶接されているボルスタ。赤い部分がリフティングポイント(日立レール提供)

ヘイ氏によると、問題のボルスタは車両本体下に溶接されており、簡単には取り外せないという。またフォード氏は「仮に溶接して修理するとなると、高圧電流が車両の電気・電子機器を損傷する恐れがあるため、すべて取り外さなければならない。複雑な工程で時間がかかる」と話す。

日立製作所は山口県の笠戸事業所で製造した高速列車395系をイギリスに輸出し、2012年のロンドン五輪では会場アクセス用列車「オリンピックジャベリン(投げやり)」としても活躍した。日立レールは「395系はイギリスで最も信頼されている列車の一つ」と胸を張る。

その技術力を買われて都市間高速鉄道計画(IEP)を受注し、800系や385系を英ニュートン・エイクリフ工場などで生産。日立が主導する特別目的会社アジリティ・トレインズが列車を保有する形で各運行会社にリースするとともに、保守事業も一括して受注した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 7
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story