コラム

スコットランド議会選 独立派が3分の2近く議席獲得か 英分裂の危機強まる EU離脱がナショナリズムに火を放つ

2021年05月05日(水)14時21分
コロナ禍、グラスゴーの炊き出し

スコットランド・グラスゴーでは炊き出しに多くの人が列をつくった(筆者撮影)

<ジョンソン英首相が主導したEU離脱でスコットランド・ナショナリズムに再燃、6日の議会選では独立派が地滑り的勝利を収める可能性も>

[スコットランド・グラスゴー発]欧州連合(EU)から離脱したイギリスは明らかに分裂に向かっている。5月6日に投票が行われる英スコットランド議会選。最新の世論調査でスコットランド独立を問う2度目の住民投票をマニフェスト(政権公約)に掲げるスコットランド民族党(SNP)と緑の党、SNP前党首の新党アルバが3分の2近くの議席を獲得する勢いを見せている。

英紙タイムズと世論調査会社ユーガブ(YouGov)は、定員129議席中、SNPが68議席、緑の党が13議席、アルバは1議席の計82議席を獲得すると予測する。この予想が当たっていたら独立3派が地滑り的大勝利を収める。スコットランド議会選は小選挙区73議席に比例8ブロック計56議席をトップアップする仕組み。タイムズ紙の独立派の予想議席数は他紙より多くなっているが、ユーガブの選挙予想モデリングには定評があり、極めて正確だ。

小選挙区で勝つ見込みのない緑の党はSNPに票を回し、比例ブロックではSNPが緑の党に票を回す選挙協力が水面下で成立したとしか考えられない。2度のワクチン接種を終えた筆者はスコットランド最大の都市でSNPの牙城であるグラスゴーに鉄路で向かった。4日夜、グラスゴー・セントラル駅のガード下では炊き出しボランティアがマカロニやチキンカレー、ソーセージやポテト、シチューなどホカホカの食事をふるまっていた。

kimura2.jpeg
温かい食事を求めてグラスゴー・セントラル駅のガード下に並ぶ人々(筆者撮影)

ボランティアの1人は「スコットランド人はニコラ・スタージョンSNP党首(スコットランド自治政府首相)のように地に足のついた人を信頼する。悪いジョークとしか思えない保守党のボリス・ジョンソン首相にスコットランドを任せるわけにはいかない」と言い切った。コロナ危機で週3回の炊き出しに集まる人は130人から250人以上に膨れ上がった。ここでふるまわれる食事は筆者が欧州各地で取材したフードバンクの中でも一番温かく見えた。

スコットランドとイングランドは犬猿の仲

炊き出しを主宰する慈善団体「ホームレス・プロジェクト・スコットランド」のナタリー・イネスさん(36)は「この団体の活動に政党色はありません。ここに集まってくる人全員がホームレスではなく、仕事があっても光熱費や飲食品の高騰で生活できなくなった人もいます」と話す。ナタリーさんは4~17歳の子供4人の里親をしながら、大学でソーシャルワーカーの勉強をしている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story