コラム

英ワクチン戦略に富士フイルム子会社が参加 「戦時体制」で集団免疫獲得に突き進む

2021年03月30日(火)11時22分
新型コロナワクチン対策について記者会見に臨んだ英ジョンソン首相(3月29日)

7月までに18歳以上のワクチン接種を終える、と出口戦略を示したジョンソン首相(3月29日) Hollie Adams/REUTERS

<かつて政治優先でコロナ対策でつまずいたことがあるジョンソン首相も、今は忠実に科学者の声を聞いている>

[ロンドン発]3月29日から段階的にロックダウン(都市封鎖)を解除していくボリス・ジョンソン英首相は記者会見で米バイオ製薬ノババックスの新型コロナウイルス・ワクチンを富士フイルム子会社がイギリス拠点で生産することを強調した。同国ではすでに3044万4829人が1回目の接種を終え、ワクチン接種による集団免疫の獲得に突き進むが、日系企業も重責を担うことになった。

このうち367万4266人が2回目の接種を済ませており、ジョンソン首相は「高齢者やハイリスクグループへの接種が入院と死亡の割合を下げるのに役立った証拠は明確だ」として「4月は多くの人に免疫を強化する2回目の接種が行われる」と明言した。7月までに18歳以上の接種を終えるという。

パトリック・ヴァランス英政府首席科学顧問は記者会見でスライドを示し、全員が1回のワクチン接種(有効性約80%で算定)を受けただけで、4週間のうちに入院するコロナ患者数は55~64歳で28.9人から5.8人に、45~54歳で21.2人から4.2人に激減すると解説した。ワクチン接種により、病院がコロナ患者であふれかえる「医療の逼迫」はほぼ確実に解消される。

210330VACCINE.jpeg

"モグラ叩き"を繰り返さないために

都市封鎖を緩和すれば人の接触回数は元に戻り、新規感染者や入院患者は増えるという"モグラ叩き"をこれまでジョンソン首相は繰り返してきた。ヴァランス氏は「高齢になればなるほど重症化リスクは増す。しかし、ワクチンを接種すれば入院する割合は劇的に減らせる。だから予防接種の通知が届いたら必ず接種してほしい」と呼びかけた。

その上で「ワクチンの効果は100%ではない。実効再生産数が今より上昇し、入院患者数が増えたら、再び社会的距離政策を強化しなければならない」と4回目の都市封鎖もあり得るとの最悪シナリオを示し、楽観ムードに釘を刺した。

1回目の都市封鎖が行われた昨年3月23日時点の入院患者数は4874人(1日当たりの新規感染者数は1273人)。2回目の11月5日時点は1万3793人(同1586人)、3回目の今年1月5日時点は3万681人(同4117人)。今は4560人(同334人)まで激減した。

原則、無償で医療を提供している国民医療サービス(NHS)はコロナ病床を柔軟に伸縮できるよう態勢を整えた。今後はワクチンの接種状況と入院患者数をにらみながら封鎖解除が進められていく。

【3月29日】屋外や庭なら6人または2家族まで集まれる。屋外のスポーツ施設を再開。特定の1人だけ介護施設の入所者を訪問できる。理由なく海外に渡航すると5千ポンドの罰金。葬式は30人、結婚式は6人まで。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story