コラム

変異株を追いかけろ 新型コロナのゲノム解析で世界一になったイギリスの科学力

2021年02月06日(土)10時01分

「一つ一つのウイルスが変異するスピードが遅くても全体として見た場合、変異は非常に多く起きる。最初から今を完全に予測していたとは言えないが、変異が重要な変化をもたらすことを知ってもらいたかった。エボラや他の感染症のゲノム解析で、それが感染症を制御する上で重要な武器になることは分かっていた」

COG-UKは公衆衛生当局や大学、サンガー研究所など17機関からなる全国的なコンソーシアム。週2万のゲノムを解析、これまでに24万のゲノム情報をデータベースに蓄積している。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのジュディス・ブロイアー教授(ウイルス学)によると、変異株の追跡作業はこんな感じだ。

ウイルスの家系図を見ると変異していく一定のパターンがある。一度に多くの変異を起こすと家系図にこれまでとは違った長い枝が飛び出す。これが注意を要する変異株だ。そして枝の先がカリフラワーのように広がっていけば、その変異株の感染が拡大していることを表している。

カリフラワーが急激に大きくなれば数理モデルを利用していかに速く感染が広がるかを予測する。英変異株は昨年11月のロックダウン(都市封鎖)中に急激に広がり、数理モデルで感染力が最大70%も強いことが分かった。

ブロイアー教授は「もし都市封鎖中でなかったら人の接触機会の増加による感染拡大だろうと見逃していた。私たちがやっていることは疫学とゲノミクスの統合だ。コンピューターで迅速にスキャンし、これまでと違うパターンなら追跡を開始する。今やプロセスは完全に"産業化"された」と語る。

イギリスは世界のコロナ・ゲノム情報の44%を占める

2008年に設立された世界的な科学イニシアチブGISAIDに共有されたコロナのゲノム数(1月29日時点)ではイギリスは19万1153件と全体の44%を占める。アメリカは8万7899件(20%)、デンマーク3万4781件(8%)、オーストラリア1万7292件(4%)。日本は1万94件(2%)だ。

kimura20210206093702.jpg

欧州最大の被害を出したイギリスは昨年春の第1波でドイツが大量にPCR検査を実施して効果的に感染拡大を防止したことから、検査能力を一気に拡大させた。人口1千人当たりの1日の検査件数は9.75件。このうち5~7%を無作為にゲノム解析に回している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米12月失業率4.6%、11月公式データから横ばい

ビジネス

米10月住宅価格指数、前年比1.7%上昇 伸び13

ワールド

プーチン氏、イラン大統領と電話会談 核計画巡り協議

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story