コラム

滅私奉公がなければ持たない日本の医療現場【コロナ緊急連載】

2021年01月12日(火)12時50分

重症者病床1床当たり「約2千万円」という菅首相のコロナ病床対策について前出の冨岡氏はこう解説する。

「私が関わっている病院の一つではコロナの影響で患者数が外来も入院も相当減ってしまって経営が成り立たなくなってきている。もともとコロナ患者は診ていなかったが、仕方なく"コロナ患者を診ます"と手を挙げている」

「今、多くの中小病院では何もしないと非常に厳しい状況になっている。経営が苦しい病院にとって2千万円は渡りに船。地域によって異なるが、200床以下の中小病院がこれから徐々にコロナにも対応する病院に変わっていかざるを得ないかもしれない」

「多くの病院が厳しい環境におかれているのは間違いないが、中にはそれほど経営が苦しくない病院も苦しい顔をしているところもあるかもしれない。ただ、日本の場合は大部分が民間病院なので真の実態は外部からでは分かりづらい」

近年の国の施策で病棟稼働率を上げないと病院経営は赤字に転落してしまうため、コロナ患者受け入れ用に病床を空けておくとその分赤字になる。診療報酬点数が高い医療ができなくなり、コロナ患者対応に人手が取られ、ますます病院経営を悪化させる。

冨岡氏は「私の居住地域の場合、昨年7月ぐらいまでは保健所にPCR検査を依頼しなければならなかったが、この半年のうちに病院内で抗原検査ができるようになり、最近は院内のPCR検査も15分で結果が分かるようになった。医療の技術革新は目覚ましく、近い将来、感染拡大に対応できるようになるという希望も持っている」と語る。

そして「日本の医療崩壊は、風評被害を恐れてコロナ患者の受け入れを断る"医療萎縮"から来る」と断言した。

東京慈恵会医科大学葛飾医療センターの越智小枝医師はこう語る。

「酸素不要でも独り暮らしの認知症で入院させないと訪問看護も来てくれないというような場合は入院させる、いわゆる社会的入院がある。日本は感染者数が少ないのになぜ医療崩壊するのだと言われるが、家に帰して人が死ぬと全て医療の責任になるという背景や、きめ細やかな医療を行っていること、国民が医療への"フリーアクセス(自由に病院にアクセスできる)制度"を当然だと思っていることなどが原因だろう」

看護師不足はいずこも同じ

イギリスでは「GP」と呼ばれるかかりつけ医に「病院での治療が必要」という手紙を書いてもらっても病院へのアクセスはなかなか認められない。イギリスをはじめ欧州諸国が軒並み大きな犠牲を出した理由の一つに、日本と違って公的病院の割合が高く、医療へのアクセスを十分に確保できなかったという事情がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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