コラム

英ワクチン集団接種をいち早く可能にした周到な準備、日本は間に合うのか

2020年12月18日(金)10時41分

card.jpg
接種日とワクチンの種類を示したコロナ予防接種カード(右)。下の空欄が2回目の接種用 (筆者撮影)

「私たちはそうしたコミュニティーに入って行ってコミュニケーションを取るようにしています。人々は必ずしも真実ではないことを信じています。彼らのバックグラウンドを理解して、どうして予防接種を受ける必要があるのかを説明すれば応じてくれる可能性が高まります」

vaccinecenter2.jpg
接種したあと15分間、様子をみる観察エリア(筆者撮影)

「英オックスフォード大学とアストラゼネカのワクチンが接種できるようになるのは新年1月とも言われています。オックスフォードワクチンは安定しているので扱いやすく、介護施設や自宅に出向いて接種できるようになります」

「できるだけ多くの人がワクチン接種を受けられるようにしたいのです。この地域の警戒レベルは再び『高』から飲食店の営業がお持ち帰りや宅配を除いて禁止される『最高』に上がりました。これまでに多くの患者、糖尿病やマイノリティーの人たちが亡くなり、たくさんの感染者が重症化しました」

「患者の命と健康を守り、日常の生活に戻るにはワクチン接種しかありません。最初は人々が予防接種に来てくれるか心配でした。ワクチンが短期間で開発されたため、多くの人が神経質になりました。しかし初日、雨が降っていたにもかかわらず、80歳以上の高齢者が列を作ったのです」

接種を受けたマリア・フェルナンデスさん(83)は「まだ多くの人に順番が回ってきていないのに、ワクチンを打ってもらうことができてとても幸せです。私は恵まれています。体調にも問題ありません」と笑顔を見せました。

elerly.jpg
「ワクチンを打ってもらえて幸せ」と話すマリア・フェルナンデスさん(右、筆写撮影)

日本は大幅に遅れる見込み

英医療調査会社エアフィニティーの予測では、イギリスの医療従事者やハイリスクグループが予防接種によって免疫されるのが新年4月、感染がそれ以上広がらない集団免疫が形成されるのは同年7月。これに対して東京五輪を控える日本はそれぞれ新年10月、2022年4月と大幅に遅れる見通しだ。

chart.png

日本は1人当たり2.3回分のワクチンしか確保していないのに対し、アメリカ7.3回分、カナダ10.6回分、イギリス6回分、欧州連合(EU)4.4回分と圧倒的に多い。日本の感染者は約18万7千人、死者2739人。イギリスの犠牲者は日本の24倍以上で、ワクチンは緊急避難のための不可避の選択肢だ。

しかし今後、欧米のような感染爆発が日本でも起きた場合、イギリスのようなワクチン接種のスピードアップとスケールアップが可能なのか、非常に心許ない。「ワクチンナショナリズム」のそしりを受けるのを承知の上で、先進国は自国民を守るためワクチン接種のカギを握る十分な供給量を確保しているのが現実だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

-日産、11日の取締役会で内田社長の退任案を協議=

ビジネス

デフレ判断指標プラス「明るい兆し」、金融政策日銀に

ビジネス

FRB、夏まで忍耐必要も 米経済に不透明感=アトラ

ワールド

トルコ、ウクライナで平和維持活動なら貢献可能=国防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story