コラム

次期米国務長官から「車にはねられ、轢かれた犬」と見捨てられたイギリス

2020年11月26日(木)16時45分

トランプ大統領はEU弱体化を目論み、メルケル首相を徹底的にたたきまくった。

さてバイデン外交を全面的に担うブリンケン氏だが、若き日にパリの名門エコール・ジァニンヌ・マヌエルで学び、流暢なフランス語を話す。「フランスの友人」とも言われている。

欧州主義者、多国間主義者、国際主義者と評されるブリンケン氏は昨年3月、オバマ前政権のスタッフが主宰する政治ポッドキャスト「ポッド・セーブ・アメリカ」でイギリスのEU離脱をこう批判している。

"This is not just the dog that caught the car, this is the dog that caught the car and the car goes into reverse and runs over the dog."

意訳すると「これは犬が車にはねられた(イギリスは次に何が起きるのか、何をすべきなのかを全く考えないままEU離脱を決めた)というだけではない。はねられたあと、バックしてきた車にひかれたようなものだ」というところだろう。

そして「完全なる混乱に陥っている」と続けた。当時、イギリスではテリーザ・メイ首相が下院にEUとの離脱合意を3度もはかり、それぞれ230票、149票、58票の大差で否決された。

「犬」はEUに留まってこそ役に立つ

ブリンケン氏は「犬(イギリスのこと)」はEUに留まってこそアメリカの役に立つとの考えの持ち主だ。ポッドキャストではこうも語っている。

「EU離脱後、北アイルランド和平は非常に難しくなる。EU抜きでは難しい。誰も北アイルランドとアイルランドの間に目に見える国境が復活するのを望んでいない。私が参加する政権はイギリスをEU内に留めることを模索するだろう」

「他国の政治に干渉するだけでなく、イギリスをEU内に留めるという明確なアメリカの国益の間の境界を歩くことは極めて難しい。この問題に首を突っ込むことが効果的か、それとも逆効果なのか、かなりの難題だ」

ジョンソン首相が、EUとの新たな協定が締結できない場合、北アイルランドに関するEUとの取り決めを一方的に破棄できるという法律を下院にかけ、可決させた今年9月にブリンケン氏はこうツイートしている。

「ジョー・バイデンは苦労して築いた北アイルランドの平和と安定を守ることに取り組んでいる。イギリスとEUがこれからの関係について交渉している。いかなる決着も、ベルファスト合意を維持し、目に見える国境が復活するのを防がなければならない」

アイルランド系移民の子孫であるバイデン氏もツイートでベルファスト合意を損ねるジョンソン首相の動きを厳しく牽制した。ジョンソン首相から祝福の電話を受けた際もバイデン氏は2回にわたって北アイルランドとアイルランド間に国境を復活させないよう釘を刺したと報じられている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story