コラム

マスク姿で登場したトランプ米大統領とジョンソン英首相 笑うに笑えぬアングロサクソンの凋落

2020年07月13日(月)12時20分

しかし全米で感染者が再び急増する中、トランプ大統領の「自由を信奉する強い男」を強調するマスク拒否のパフォーマンスに与党・共和党内からも「これでは感染拡大を防げない」と批判が強まり、7月1日ようやく「私はマスクに大賛成」と宗旨変え。11日、ワシントン近郊の軍医療センターを訪問した際、マスクを着用して廊下を歩く姿を公開した。

トランプ、ジョンソン両氏に共通するのは、選挙に勝つために強い男を振る舞う「ストロングマン・プレイブック」に従い、大言壮語や差別発言を連発してきた反エリートのポピュリストということだ。非科学的、非合理的な論理を振りかざし、ノン・エリートに転落した白いアンダークラスの怨念を煽って支持を集めてきた。

イギリスがいまだEU離脱派と残留派に二分しているように、アメリカもトランプ派(保守)と反トランプ派(リベラル)が激しく対立。白人警官による黒人暴行死事件に端を発した黒人差別撤廃運動「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」や奴隷制と建国の歴史、マスク着用を巡ってトランプ派と反トランプ派はアメリカを真っ二つに分断している。

本来、自由と平等、法の支配、人権、科学は米英社会の共通理念、共通基盤であるはずなのに、それを巡って保守とリベラルが自由主義陣営と共産主義陣営が対立した冷戦時代のように激しい火花を散らす。それだけ米英型カジノ資本主義が社会にもたらした格差という分断は大きかったということだろう。

スペインかぜでもマスク論争

この期に及んでマスクをしない「自由」を貫いてきたジョンソン首相とトランプ大統領がマスクを着用して公衆の面前に姿を現したのは、マスクが感染防止と経済再開を両立する有効なツールだからだ。アメリカでは世界で最大5000万人の死者を出した1918~19年のスペインかぜでもマスク着用を巡って激しい論争が起きている。

スペインかぜは第一次大戦中の1918年3月に米中西部カンザス州で確認され、軍を守る有効な対策としてマスク着用が主に西部の州で義務付けられた。戦争に勝つため、マスクを着けない者は「怠け者」とみなされた。しかし心の中ではマスク着用を嫌がる人は多く、戦争が終わると、サンフランシスコでは「反マスク連盟」が結成された。

anglosaxon.jpg

アングロサクソン国家のマスク着用率は、先住民・黒人・ヒスパニックの死亡率が白人に比べ4~5倍になったアメリカが73%と一番高く、次にカナダ、イギリスと続く。ニュージーランドと並んで新型コロナウイルスの封じ込めに成功したオーストラリアではマスク着用率は低下している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story