コラム

英国の危険な賭け 再生産数を頼りに封鎖解除の見切り発車 ジョンソン首相の大罪

2020年05月11日(月)12時15分

給与の8割の休業補償を続けるにも予算には自ずと限りがある。そしてこの6月にはEU離脱の移行期間を今年末から最大2年間延長するかどうかを決めなければならないのだ。

しかし実効再生産数を0.5~0.9の間に保つため英国が新型コロナウイルスの感染状況を正確に把握できるかというと、その能力は心許ない。

コロナ警報システムを構築するため検査能力を1日1万件から10万件以上に拡充したとはいうものの、検査の結果が出るまで3日間もかかる。スマートフォンアプリを使って感染経路を追う「コンタクト・トレーシング(接触追跡)」もワイト島で実用試験が始まったばかりだ。

ワクチンも治療法も見つからなければ、医療が逼迫する繁忙期の冬には死体の山がもっと高く積み上がるかもしれない。

(参考)

・イギリスの封鎖解除に向けた5つのハードル

(1)NHSの医療システムが正常に機能するか

4月前半にNHSは「必要とされるキャパシティーを持っていると確信」と評価。イタリアやスペインのような医療崩壊は回避。

(2)日々の死亡率が継続して低下しているか

4月第2週に死者のピークは越える。病院での死者は減少しているものの、老人ホームの死者は依然として増えている。

(3)感染が制御できるレベルまで低下しているか

PCR検査の実施能力に限界があるため正確な傾向はつかめないという問題が残る。実効再生産数は1を下回る。おそらく0.7の周辺。

(4)検査能力や感染防護具の供給が将来の需要を満たすか

医療機関だけでなく老人ホームや公共サービスでも感染防護具が必要になるため供給の問題は残る。防護服2500万着を供給してもらうことで中国と合意。

(5)封鎖解除で第二波による医療崩壊を起こさない

大量検査とコンタクト・トレーシングで感染経路をあぶり出し、感染者を隔離して虱(しらみ)潰しにする作戦は今のところ絵に描いた餅に過ぎない。

警戒を怠ってはいけない6つのポイント

・できるだけ家にいること

・可能な場合は自宅勤務

・他の人との接触を制限

・外出する場合は、安全距離の2メートルを保つ

・手洗い励行

・家庭の誰かに症状が出たら家族全員で自己検疫

20050519issue_cover_150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月19日号(5月12日発売)は「リモートワークの理想と現実」特集。快適性・安全性・効率性を高める方法は? 新型コロナで実現した「理想の働き方」はこのまま一気に普及するのか? 在宅勤務「先進国」アメリカからの最新報告。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米財務長官、FRB議長候補2氏を高評価 「オープン

ビジネス

FF金利先物、1月米利下げ確率31%に上昇 失業率

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story