コラム

ドイツはプライバシー保護を徹底 京アニ犠牲者の実名公表・報道の是非を考える

2019年09月18日(水)18時30分

何かを伝える仕事は誰かのプライバシーを侵害することになるので、公人でない限り同意が必要です。「人のプライバシーを侵害して良いと思っているのか」と問い詰められると困ってしまいます。公人にも、それがプラスに働くかどうかは別にして取材を拒否する権利はあります。

1971年11月、ドイツのミュンヘンで欧州連合(EU)の前身である欧州共同体(EC)6カ国のジャーナリスト連合の代表者会議が開かれ、承認された「ジャーナリストの権利と義務の宣言」を見てみましょう。

「情報、表現の自由、批判の権利は人間の基本的な権利の1つです」「ジャーナリストのすべての権利と義務は、出来事や意見について公に知らされるこの権利に由来します」。そして「プライバシー尊重のためその権利は制限される」とジャーナリストの義務をうたっています。

プライバシーを重視するドイツ

ドイツ・プレス評議会のガイドラインはかなり詳しく被害者保護について定めています。

「事故や自然災害が発生した場合、報道機関は被害者と危険にさらされている被災者に対する緊急支援が『知る権利』に優先することに留意しなければならない」

「被害者は身元に関して特別に守られる権利を持っています。一般的に被害者の身元に関して知ることは事故の発生、災害や犯罪の状況を理解するのに役に立ちません」

「被害者や家族、親族、権限を与えられたその他の人の同意がある場合か、被害者が公人である場合にのみ、被害者の名前と写真を報道することが許されます」

「脅かされた実際の暴力行為を報道する際、報道機関は国民の知る権利と、被害者や他の関係者の利益を慎重に比較衡量する必要があります」

「事故・災害報道の際、取材の限界は被害者の苦しみと家族の感情を尊重することです」「不幸な被害者は、メディアでの描写によって二度苦しめられてはなりません」

「メディアと警察の間の調整は、ジャーナリストの行動が被害者や関係者の生命と健康を守ったり、救ったりできる場合にのみ限られます」

「犯罪者の回顧録の出版は、犯罪が後から正当化されたり、被害者が負の影響を受けたり、犯罪の詳細な記述がセンセーションの欲求を満足させたりする場合に限り、ジャーナリズムの原則に反します」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story