コラム

資本主義が生き残るための処方箋──生活賃金かベーシックインカムか

2019年02月27日(水)12時20分

一方、同財団の生活賃金とは別に、英国政府は最低賃金制度の一環として2016年、法定の「全国生活賃金」を導入している。

現在、25歳以上の生活賃金は時給7.83ポンド(約1141円)、21~24歳に適用される最低賃金は7.38ポンド(約1076円)とされている。最大野党・労働党が主張する生活賃金は10ポンド(約1458円)だ。

生活賃金を下回る労働者はパートタイム310万人、フルタイム240万人。職種別では販売・小売店補助、レストランやケータリングの補助、清掃や家事、介護・在宅サービスとサービス業が圧倒的に多い。

フィンランドでは2017年1月から2年間にわたって既存の基礎失業給付や労働市場補助金を停止する代わりに月額560ユーロ(約7万470円)のベーシックインカムを支給する実験が行われた。

ベーシックインカムとは最低限度の生活を保障するため国民全員に同額の現金を配る制度だ。

2年間のうち1年目の調査結果では、参加者の就労状況はほとんど変わらなかったが、自分で感じる健康状態やストレス度は他のグループよりも改善された。

日本でも自民党の有志議員が「最低賃金一元化推進議員連盟」を設立し、全国一律の最低賃金を目指す。最低賃金は最も高い東京都で985円、鹿児島県で761円と224円の開きがある。都市と地方との賃金格差を解消するのが狙いだ。

最低限の生活を保障するために働くべきか、働かざるべきかと問われたら、やはり働いて十分な賃金を稼げた方が良いに決っている。資本主義が生き残るためには所得配分と富の再分配機能を復活させるしかない。

筆者はベーシックインカムより生活賃金を支持したい。

生活賃金財団のキャンペーン責任者ローラ・マカボイさんは「多くの金融機関はいまだに警備や清掃の従事者に生活していける賃金を支払っていません。今回のキャンペーンがシティーの雇用主に生活賃金導入を促すと信じています」と力を込めた。

※3月5日号(2月26日発売)は「徹底解剖 アマゾン・エフェクト」特集。アマゾン・エフェクト(アマゾン効果)とは、アマゾンが引き起こす市場の混乱と変革のこと。今も広がり続けるその脅威を撤退解剖する。ベゾス経営とは何か。次の「犠牲者」はどこか。この怪物企業の規制は現実的なのか。「サバイバー」企業はどんな戦略を取っているのか。最強企業を分析し、最強企業に学ぶ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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