コラム

資本主義が生き残るための処方箋──生活賃金かベーシックインカムか

2019年02月27日(水)12時20分

ロンドン地下鉄の主要駅に登場した生活賃金導入を訴える大型ポスター(生活賃金財団提供)

[ロンドン発]「私たちの首都で働く5人に1人が生活していける賃金をもらっていません。みんなで協力してこの問題を解決していきましょう」――。

世界屈指の金融都市「シティー・オブ・ロンドン・コーポレーション」が英民間団体「生活賃金財団」の後援で、労働者が最低限の生活を維持するために必要な生計費から算定した賃金である「生活賃金」の導入を呼びかけるキャンペーンを始めた。

「シティーの100社以上がロンドンの生活賃金を払うことに同意しています。しかし、もっと多くの会社が参加できると思っています」

2週間にわたってリバプール・ストリート駅、ユーストン駅、ビクトリア駅、パディントン駅を含むロンドンの主要9駅に大型ポスターを掲げる一方、ソーシャルメディアや新聞広告を通じて運動を広げるという。

「1マイル(1.6キロメートル)四方」と呼ばれる金融街シティーには金融機関や法律事務所、国際コンサルティング会社など9490社がひしめき、27万3000人が働いている。

学生の就職先としても人気

同財団の調査では、93%の大学生が生活賃金を導入している会社で働くことを望んでおり、生活賃金を導入している企業の86%がビジネス上の評価が上がったと答えた。

シティーにある保険会社アビバは2006年から生活賃金を導入。不動産・施設部長のスチュアート・ライト氏は「これは単にお金の問題にとどまらず、労働者に誇りを与えます。採用にもプラスになります」と語る。

「シティー・オブ・ロンドン・コーポレーション」の行政責任者キャサリン・マクギネス氏もこう話す。

MAS_8231 (720x480).jpg
キャサリン・マクギネス氏(筆者撮影)

「生活賃金を支給することはビジネスにとっても私たちの社会にとっても良いことです。もっと大切なのは労働者とその家族の生活の質を向上させるということです」

これがロンドンの「春闘」と言うべきか。

グローバリゼーションとデジタイゼーションの波は先進国の非熟練労働者をのみ込んだ。産業構造の転換が加速し、賃金が生計費の下限を超えて押し下げられた。

ロンドンでも1日に別の職場で2度働かなければ生活できない「ダブルワーク」の低賃金労働者が続出した。「子供と過ごす時間を返して」と2001年以降、雇用主に生活賃金の導入を求める運動が広がった。

同財団は昨年11月、18歳以上の実質生活賃金を時給9ポンド(約1313円)に、ロンドンの生活賃金を10.55ポンド(約1539円)に引き上げると発表。同財団の生活賃金を自主的に導入する雇用主は英国全体で4700社、ロンドンで1500社以上にのぼる。

英国の生活賃金 (720x540).jpg

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:マスク氏の新党構想、二大政党制の打破には長く

ビジネス

6月工作機械受注は前年比0.5%減=工作機械工業会

ワールド

解任後に自殺のロシア前運輸相、横領疑惑で捜査対象に

ビジネス

日産、米国でのEV生産計画を延期 税額控除廃止で計
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワールドの大統領人形が遂に「作り直し」に、比較写真にSNS爆笑
  • 4
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story