コラム

愛国化する世界──蓮舫氏の二重国籍とフランスの「国籍と名前」論争

2016年09月15日(木)16時14分

二重国籍なら政権はとれない(15日、民進党の新代表に選出された蓮舫代表代行) Toru Hanai-REUTERS

<保守系メディアに突っ込まれては二転三転した蓮舫の対応が、日本人の要件を高くしてしまったとしたらその責任は大きい>

 民進党代表選に立候補している蓮舫代表代行(48)が13日、台湾当局から連絡があったとして「台湾籍が残っていた」ことを認め、謝罪した。日本国憲法も公職選挙法も日本国籍があれば選挙権と被選挙権を付与する一方で、重国籍者を排除していない。重国籍者を排除すれば、歴史に翻弄され、国と国とのはざまに落ち込んだ日本国籍取得者に「日本人」としての権利を認めないことになるからだ。

 台湾出身の父親と日本人の母親を持ち、日本で生まれ育った蓮舫氏は1984年の国籍法改正に合わせて17歳で日本国籍を取得した。それまで日本は父系血統主義をとっていたが、父母両系血統主義に改められ、特例として日本人の母親から生まれた20歳未満の子供は蓮舫氏と同じように施行日から3年以内に法相に届け出れば日本国籍を取得できた。

外交や安全保障は例外

 最大野党とは言え、民進党は衆院定数475のうち96議席、参院定数242のうち58議席しかない。民進党を軸に野党連合が結成され、次の総選挙で過半数を取れば、民進党代表が首相になることもあるとして、オンラインメディアの「アゴラ」と産経新聞が蓮舫氏の「二重国籍」問題に火をつけた。

【参考記事】「国籍唯一の原則」は現実的か?――蓮舫氏の「二重国籍」問題をめぐって

「国籍唯一の原則」を掲げる日本では「二重国籍」は存在しないのが建前だ。しかし国籍離脱を認めない国や原国籍の放棄を求めない国もあるため、2009年時点で58万人ぐらいの重国籍者がいるとも言われてきた。国籍は、外交や安全保障を扱う政治家にとっておろそかにできない問題だ。日本の外交官試験は重国籍者を排除している。外交官は外交特権によって守られているが、外国籍が残っていた場合、不可侵権や治外法権に空白が生じる恐れがあるからだ。

【参考記事】無国籍住民に大量の外国籍を買うクウェートの真意

 重国籍者が首相や外相になると、他国につけ込まれる恐れを完全には払拭できない。蓮舫氏が台湾籍を残したまま民進党代表になったとしたら、民進党は政権を目指さないと宣言したのと同じだ。現に今回の騒動で、72年の日中国交正常化に伴って日本と中華民国(台湾)が断交し、在日台湾人の国籍が「中国籍」として扱われていることにスポットライトが当たった。台湾も、中国同様、沖縄・尖閣諸島の領有権を主張しており、次の総選挙で台湾籍を引きずっていた蓮舫氏に率いられた民進党に追い風が吹くとはとても想像できない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

カナダ製造業PMI、6月は5年ぶり低水準 米関税で

ワールド

米国は医薬品関税解決に前向き=アイルランド貿易相

ビジネス

財新・中国サービス部門PMI、6月は50.6 9カ

ワールド

気候変動対策と女性の地位向上に注力を、開発銀行トッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story