加谷珪一が考える『ポスト新産業革命』

「人口減少」×「人工知能」が変える日本──新時代の見取り図「不動産・住宅関連業界編」

2018年03月26日(月)13時45分

これからは築年ではなく場所がすべて

こうした変化は日本人特有の新築信仰にも大きな影響を与えるだろう。これまでは場所よりも築年の方が価格に対する影響が大きかったが、今後は場所の寄与度が増加するだろう。不便な場所の物件価格は、新築であっても大幅に値下がりする可能性が高い。

古い物件でも利便性が高ければ価値が維持されるということなれば、中古物件のリフォームなど、住宅関連のビジネスにとっては追い風となる。これに加えて、必ずしも住宅を所有することが得策とは限らなくなるので、生涯、賃貸で通す人も増えてくる。不動産賃貸ビジネスは多様化が進むだろう。

しかも、住宅の分野は実はAIとの関連性が深い。

日本の住宅市場は、ハウス・メーカーや住設機器メーカーの影響力が強く、利用者に近い立場にいる工務店は大きな力を持っていなかった。だが、こうした重層的な産業構造もAI社会の到来によって変わろうとしている。

アマゾンは2017年9月、オフィス用品やプロ向け資材を法人に提供する「アマゾンビジネス」のサービスを国内でもスタートさせた。アマゾンビジネスはアスクルに対抗したサービスとイメージされており、実際にそうした面があるのは事実だが、同社の狙いはオフィス用品だけではない。アマゾンビジネスが最終的なターゲットにしているのは、プロ向け資材分野である可能性が高い。

不動産や住宅の分野にもAIの影響が

プロ向け資材をネット販売する企業としてはモノタロウがよく知られているが、アマゾンはモノタロウの領域を虎視眈々と狙っている。最近、アマゾンにおいて、中国企業がプロ向け資材を破格の値段で販売するケースが増えており、ジワジワと建設現場に浸透している。

この動きを加速するのが、AIスピーカーである。

グーグルホームやアマゾンのエコーといったAIスピーカーには家電を制御する機能がすでに組み込まれている。米国では、この基準に準拠した電球やコンセントなどが無数に販売されており、その気になれば、スマートホームを自由自在に設計できる。

アマゾンから資材を調達し、工務店が顧客の生活に合わせたスマートホームのリフォームを実施するという流れが見えてくる。当然、賃貸マンションといった不動産ビジネスにおいてもAIと結びついたサービスが増えてくるだろう。

現在でも、賃貸マンションのサービスの中に、ネット接続が含まれているケースがあるが、これをもう一歩進め、AIスピーカーとそれに接続された家電をセットで賃貸することも可能となる。実際、レオパレス21など一部の事業者はすでにAIスピーカーをセットにした賃貸サービスをスタートさせている。10年後、家の中には、見えない形でAIが普及しているかもしれない。

【第1回】新時代の見取り図「金融機関編」
【第2回】新時代の見取り図「小売編」
【第3回】新時代の見取り図「自動車産業編」


『ポスト新産業革命 「人口減少」×「AI」が変える経済と仕事の教科書』
 加谷珪一 著
 CCCメディアハウス

筆者の連載コラムはこちらから

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁ら、緩やかな利下げに前向き 「トランプ関

ビジネス

中国、保険会社に株式投資拡大を指示へ 株価支援策

ビジネス

不確実性高いがユーロ圏インフレは目標収束へ=スペイ

ビジネス

スイス中銀、必要ならマイナス金利や為替介入の用意=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 7
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 8
    「敵対国」で高まるトランプ人気...まさかの国で「世…
  • 9
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 10
    トランプ氏初日、相次ぐ大統領令...「パリ協定脱退」…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 9
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story