コラム

国債の大量発行が招く「インフレ税」とは? 損をするのは国民...教科書にある「基本」を認識すべきだ

2024年07月10日(水)18時09分
インフレで損をする国民

SOI7STUDIO/SHUTTERSTOCK

<国債による資金調達は一見すると誰もコストを負担しないように思えるが、実際は消費税の大幅引き上げより大きな国民生活への悪影響をもたらす>

為替市場で再び円安が進んでおり、さらなる物価上昇が懸念されている。一方、日本の財政は危機的状況にあり、政府は財源の確保に苦労しているが、世論の一部は、依然として国債の大量発行を望んでいる。

国債による資金調達は、誰もコストを負担しないように見えるが、そうではない。国債発行は確実にインフレを加速させ、預金の目減りという形で国民に大増税を課す結果となる(インフレ課税)。インフレによる課税は目に見えにくいので、多くの国民は気付かないが、実は消費税の大幅引き上げよりも国民生活への悪影響が大きい。


一般的に物価が上昇すると、お金を借りている経済主体(借り入れのある個人や企業など)は利益を得て、お金を貸している経済主体(預金している個人や企業など)は損失を抱える。

5年後に返済する契約で、ある個人が100万円を借りたと仮定する。インフレが進み、5年後に物価が1.5倍になった場合、お金を借りた人は大きな利益を得ることになるのだが、そのメカニズムは以下のとおりである。

「政府の赤字は国民の黒字」と言われるが......

インフレで物価が1.5倍になると、同じ商品を購入するために1.5倍の資金を投じなければならない。現在、価格が100万円となっている自動車の価格は、5年後には150万円になっているはずだが、お金の借り手は、物価が1.5倍になっているにもかかわらず、返す金額は100万円のままでよい。

一方、100万円を預金していた人(貸していた人)は、現時点ではクルマを1台購入できるものの、5年後には150万円になっているので100万円ではクルマを購入できない。物価が上がったということは、預金者の資産が実質的に目減りする一方、お金を借りた人にその所得が移転したと見なすことができる。

現時点において、国内で最も大きな額を借金しているのは政府であり、最大の貸し手は国民である。ネットなどを見ると「政府の赤字は国民の黒字」と勇ましく叫んでいる人をよく見かけるが、まさにそうであるからこそ問題は深刻だ。

一連の状況下でインフレが進むと、国民の預金(黒字)が実質的に目減りし、その分が政府の借金(赤字)穴埋めに充当される。これは国民の預金に税金をかけ、政府の借金返済に充てたことと全く同じであり、財政の世界ではこれをインフレ課税と呼ぶ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア国営TV、米有権者をトランプ氏に誘導か=米情

ワールド

アングル:ハリス対トランプ」TV討論会、互いに現状

ワールド

SNS、ロシア影響下疑惑の投稿にほぼ未対応

ワールド

アングル:サウジに「人権問題隠し」批判、eスポーツ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...「アフリカの女性たちを小道具として利用」「無神経」
  • 3
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
  • 4
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 5
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 6
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 7
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    川底から発見された「エイリアンの頭」の謎...ネット…
  • 10
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 1
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つの共通点
  • 4
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 5
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 6
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 7
    再結成オアシスのリアムが反論!「その態度最悪」「…
  • 8
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 9
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 10
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story