コラム

新築マンションに荷さばき場「義務化」議論...これまでの「間違った規制緩和」からの転換は正しい

2024年06月13日(木)11時47分
マンション「荷さばき場」規制強化

MAHATHIR MOHD YASIN/SHUTTERSTOCK

<政府は、大規模マンションに荷さばきスペースを確保するよう義務付ける議論を進めているが、どんな効果が見込まれるのか>

政府内部において、新築マンションに「荷さばき場」の設置を義務付ける議論が進んでいる。人手不足に伴う物流の混乱は社会問題となっており、マンションなど大型施設において設置を義務付けることは、物流問題を解決する1つの方策となるだろう。

ネット通販は今や社会の基本インフラとなりつつあり、運送事業者の取扱量は増える一方となっている。一方、国内では人手不足が深刻化しており、事業者にとっては人員確保が難しい状況が続く。

これまでの日本社会では、配達員が荷物を手渡しするのが当たり前だったが、利用者も社会の変化に気付くようになっており、置き配など、簡素化された配達方法が標準化しつつある。

しかしながら、置き配を実現したからといって問題が解決するほど状況は甘くない。物流合理化の大きな支障の1つとなっているのが、住宅地に十分な施設が整備されていないというインフラの問題である。

日本は道路が狭く、宅配事業者の駐車スペースを確保するのは容易ではない。宅配ボックスの設置も十分に進んでいないため、これが配達の大きな障害となっている。政府の規制改革推進会議は、大規模マンションに荷さばきスペースを確保するよう答申を行う予定となっており、これを受けて政府は駐車場規制として通知を行う見通しである。

これまでの政府は、建造物に関して容積率の見直しなど規制緩和ばかりを進めてきたと言っても過言ではない。その結果、日本の街並みは景観が維持されないばかりか、余裕のない建物が増えたことで、物流の障害を引き起こしている。

狭い階段などを通らないと入り口に入れないマンションも多く、配達員は地域を熟知しなければ配達できず、ロボットなど自動配送の普及にも大きな障害となっている。

建造物の規制強化は有効

本来、建造物というのは規制を強めに実施し、公共インフラとしての役割を課したほうが、最終的な経済効果は大きい。

一般的なビジネスについては規制緩和を進め、寡占事業者による弊害を排除したほうがよいケースも多いが、日本の場合、建造物の基準ばかりが緩和されるというちぐはぐな状況となっている。その意味では、建造物の規制を強化する動きが出てきたことは評価してよいだろう。

この措置は、今後、建設するマンションに適用するものだが、この考え方をもう少し拡張すれば、中古マンションなど既存施設にも応用できる。古い時代のマンションは公共スペースに余裕があるので、政府が補助と同時並行で一定の義務化を行えば、荷さばき場や宅配ボックスの設置をさらに進められる可能性が高い。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

初外遊のローマ教皇、レバノンで平和共存訴え かつて

ワールド

東南アジアの豪雨死者800人に迫る、インドネシア4

ワールド

独スイス当局、仮想通貨ミキシングサービスを閉鎖 マ

ビジネス

米コストコ、トランプ関税巡り政権を提訴 還付視野に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story