コラム

不利な投資のはずの「金」がこれほど買われる理由の裏に、投資家が恐れる長期的リスク

2023年04月20日(木)18時10分
金市場イメージ

MICROSTOCKHUB/ISTOCK

<投資対象としては不利な条件がそろう金だが、価格が大幅に上昇し続けているのはウクライナ侵攻や金融不安といった短期的なリスクだけが理由ではない>

このところ金の価格が大幅に上昇している。昨年10月には1トロイオンス当たり1600ドル程度だったが、年末以降、上昇傾向が続いており、4月には2000ドルを突破した。国内の貴金属業者でも一般投資家からの問い合わせが増えているという。

太古の昔から金は多くの人を魅了してきたが、金融システムが整った現代において、金は「相対的に不利な投資対象」というのが現実である。株式や債券の保有者には配当や利子が支払われるので、価格の上下変動はともかく、保有することで利益を得ることができる。

ところが金は保有していても何も収益を得られないどころか、保管にコストがかかるなど、逆に損失が発生する商品だ。金資産を裏付けにしたETF(上場投資信託)など金融商品化したものも存在しているが、保管コストがかかるのは同じであり、価格の変動要因が存在しない場合、毎年ごくわずかだが、保管コスト分だけ時価総額は減っていくことになる。

これだけ不利な条件がそろっているにもかかわらず、金を保有する投資家が存在し続けているのは、非常時における資産保全を想定しているからにほかならない。

金は金融システムが不安定になったり、戦争など地政学的なリスクが高まると買われやすくなる。ロシアによるウクライナ侵攻や米中対立など、地政学的リスクは高まる一方であり、それに加えて、アメリカの銀行破綻やクレディ・スイスの経営不振など金融システムに対する不安も増大している。

短期的に見れば、金が買われる要因がそろっており、その意味では金価格が上昇してもそれほど驚くべきことではない。

長期的な変動要因は1つ

だが、金の価格推移をもう少し長期的に眺めてみると、違った要因が浮上してくる。短期的に見れば、金は金融システム不安や地政学的リスクで価格が上下するが、長期的にはほぼ単一の要因で価格が決まる。それは通貨(ドル)の価値毀損、つまりインフレに対する懸念である。

シンプルに言ってしまえば、インフレが進むと予想されるときに金は買われ、インフレが落ち着くと金価格は下落する関係にある。戦後、最も金価格が顕著に上昇したのはインフレが最も激しかった1970年代であり、アメリカ政府による金とドルの兌換停止、いわゆるニクソン・ショックをきっかけに約10年間で金価格は18倍に高騰した。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story