コラム

中国依存が大きい日本の半導体産業が、米中「半導体戦争」で迫られる大転換

2022年12月09日(金)17時16分
半導体イメージ画像

MYKOLA POKHODZHAY/ISTOCK

<アメリカによる対中輸出規制の強化に巻き込まれる日本。半導体製造装置の輸出など中国への依存度は高く、アメリカとの間で板挟みに>

米バイデン政権が半導体分野を中心に対中輸出規制を強化している。従来の規制は特定企業に対するものが中心だったが、今後は人工知能(AI)など先端技術を中心に広範囲に規制をかける方向性に舵を切った。日本の半導体戦略も見直しを迫られるだろう。

これまでアメリカは、中国の通信機器メーカー華為技術(ファーウェイ)を中心に、特定企業に対する半導体の輸出を許可制にするなどの各種規制を加えてきた。アメリカ製半導体が軍事転用されたり、中国が最先端半導体の製造技術を獲得することを防ぐのが狙いである。

今回の決定はこの措置をさらに拡大し、中国企業全般に対して輸出制限をかけると同時に、半導体のみならず製造装置など周辺分野も対象に加え、人材の就業も規制するなど、より包括的な内容となっている。一連の規制強化は日本企業の戦略にも影響を与える可能性が高く、特に半導体製造装置の分野では抜本的な見直しを迫られることもあり得る。

日本は半導体そのものの製造については、既に世界市場でのシェアを失っており、輸出も伸びていない。一方、半導体製造装置は中心的な輸出品目の1つに成長し、中国向けが全体の約4割を占めるなど、中国が最大顧客となっている。

アメリカは日本などの同盟国に対して対中規制への追随を求めており、もし日本がこれに従う場合、中国向けの製造装置輸出が影響を受ける。どの製品が規制対象となり、どの製品が外れるのか、そのさじ加減によっては関連企業の業績は大きく変動することになるだろう。

「台湾有事」というリスク要因

もう1つの影響は長期的な半導体の確保である。アメリカが中国に対して半導体規制を強化する背景には、台湾有事のリスクがある。現在、アメリカ企業は半導体の製造を台湾企業に外注するケースが多く、半導体の製造については台湾企業が圧倒的なシェアを握っている。

もし中国が台湾に侵攻するような事態となれば、アメリカは半導体の確保が難しくなる。アメリカ政府はインテルなど自国企業に国内に製造拠点を建設するよう強く求めており、同時に中国による最新技術の獲得を防ぐため、多くの制限をかけている状況だ。

つまり半導体については、安全保障上、自国で生産できるような体制を構築することが各国にとって必須要件となっているのだが、ここで問題となるのが日本である。日本は最先端半導体の製造を自国で行うことができず、ほぼ全てを国外メーカーに依存している。台湾で有事が発生した場合、日本は最先端の半導体をまったく入手できなくなる可能性もゼロではない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、次期5カ年計画で銅・アルミナの生産能力抑制へ

ワールド

ミャンマー、総選挙第3段階は来年1月25日 国営メ

ビジネス

中国、ハードテクノロジー投資のVCファンド設立=国

ワールド

金・銀が最高値、地政学リスクや米利下げ観測で プラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story