コラム

アマゾンやテスラが「脱炭素」産業に参入、日本企業に勝ち目はあるか

2021年09月22日(水)21時08分
amazon

PASCAL ROSSIGNOLーREUTERS

<アマゾンやテスラといった「異業種」のIT大手企業が、続々と再生可能エネルギー産業に参入しているのには合理的な理由がある>

米アマゾンが三菱商事と組んで、再生可能エネルギーを使った電力調達網の構築に乗り出すことになった。電気自動車(EV)大手のテスラも、日本国内に大規模蓄電池設備を建設する計画を打ち出している。IT関連の外資系企業が次々と国内エネルギー市場に参入する背景には何があるのだろうか。

三菱商事は子会社を通じて日本国内450カ所以上の再生可能エネルギーの発電設備を整備し、10年間にわたってアマゾンのデータセンターや物流センターにクリーンな電力を供給する。発電容量は2万2000キロワットで、電力会社を通さない直接契約となる。アマゾンは全世界で同様の仕組みを構築し、会社で使用する電力の多くを再生可能エネルギーで賄う方針だ。

テスラはもともとEVのメーカーだが、同社の中核技術は電力制御にある。近年はこの技術を生かし、再生可能エネルギーの送電網に対応した蓄電池システムの開発に力を入れている。再生可能エネルギーを普及させるには電力の安定供給が不可欠だが、テスラは日本の新電力会社と組んで北海道に巨大な蓄電池システムを建設。電力供給における調整弁のサービスを提供する。

アマゾンは基本的に電力ユーザーとして、一方、テスラは事業者としての参画だが、両社には高度なIT技術を持つという共通点がある。再生可能エネルギーと聞くと、多くの人が太陽光パネルや風車などハードウエア技術を思い浮かべるかもしれない。

ハードウエア技術も重要だが

確かにこうした技術も重要だが、脱炭素社会を実現するカギを握っているのはハードウエアではなく、高度なソフトウエア技術である。

再生可能エネルギーは出力変動が大きく、また設備当たりの出力が小さいため、無数の発電設備をグリッド(網の目状)として接続し、需要と供給の変動をうまくバランスさせる必要がある。出力過大時にはテスラが提供するような蓄電池に充電したり、余剰電力を水素生産に充当するなどの対処法が検討されている。

一方、天候不順で出力が低下しているときには、蓄電池からの放電や再生可能エネルギーを使って生み出したクリーンな水素を使って火力発電を行い、電力不足を回避する(二酸化炭素を排出して製造される水素は脱炭素には貢献しないので注意が必要)。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促

ビジネス

米アポロ、後継者巡り火花 トランプ人事でCEOも離

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story