コラム

パナマ文書問題、日本の資産家は本当に税金逃れをしているのか?

2016年05月17日(火)15時47分

楽天会長の三木谷氏など何人か名前が挙がっているが、日本は独裁国家とも欧米民主国家とも状況が異なり、日本人や日本企業がタックスヘイブンを利用するメリットは少ない Michael Caronna- REUTERS


〔ここに注目〕日本の企業活動、税法の特徴

 タックスヘイブン(租税回避地)に関する流出情報、いわゆる「パナマ文書」が話題となっている。タックスヘイブンの存在は一般にあまり馴染みがないせいか、各種報道を見ていても問題点があまり整理されていない印象を受ける。タックスヘイブンを利用することの何が問題なのかまとめてみた。

どの立場の人が何を目的に利用したかで意味は変わる

 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は5月10日、「パナマ文書」に関連する約21万社の会社名などを公開した。タックスヘイブンに設立されたペーパーカンパニーは、資産隠しや税金逃れに利用されるケースがある。

【参考記事】パナマ文書、本当の暴露はこれからだ

 リストにはロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席など、著名な指導者に関連したものがあるとされ、全世界のメディアが注目している。また、一部には日本の大手企業や資産家の名前も掲載されており、該当者は釈明に追われている状況だ。

 ひとくちにタックスヘイブンの利用といっても、どの国のどういった立場の人が、何を目的に利用したのかによってその意味は大きく変わってくる。

 もっともインパクトが大きいのは、中国やロシアなど独裁政権の指導者による資産隠匿の問題である。独裁政権の指導者は基本的に自国の体制を信用していないことから、政変を警戒し、タックスヘイブンに資産を隠匿するケースが目立つ。

 中国の習近平指導部はこのところ汚職の摘発に力を入れており、多くの幹部が逮捕されている。中国における汚職摘発は純粋な犯罪の処罰というよりも、むしろ権力闘争に近い。政敵に対する弾圧を強める一方、自身は巨額の資産を隠匿していたという話になると、政権基盤が揺らぐ可能性がある。

 ロシアも同様で、独裁色を強めているプーチン大統領にこうしたスキャンダルが浮上した場合、これまで力で抑圧してきた反対勢力を勢いづかせることになり、国際政治に大きなインパクトをもたらすことになる。真偽の程は定かではないが、今回の文書流出に米国の政府当局が関与しているとの噂が出るのも、こうした背景があってのことである。

日本には海外で多額の利益を得ている企業・個人がない

 一方、欧米の民主国家においては、企業や個人がタックスヘイブンを活用して税金逃れを行っていることが問題視されている。アマゾンやグーグルなど、グローバルに活動する企業の中には、税金の安い地域に意図的に利益を集中させ、本国での課税を少なくしているところがある。

 またグローバルに活動するビジネスマンが、国外での報酬をタックスヘイブンに逃がしているケースも多い。一部ではこれが政治問題化しており、パナマ文書の公開によって、こうした税金逃れの実態が明るみに出る可能性がある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story