コラム

「民泊」拡大が暗示するのは、銀行のない未来

2015年12月08日(火)15時42分

 先進国では金融機関や調査会社が、巨大な信用情報データベースを構築しており、これに基づいて融資の可否といった判断が行われる。このデータの持つ威力はすさまじく、これが存在することで、既存の金融機関は他業種からの新規参入を防ぐことができている。ところが、アフリカなど途上国では、個人の信用力を調査するための大規模な仕組みが存在しない。そうであればこそ、こうした金融ベンチャーに参入余地が生じるわけだが、彼等はどのようにして利用者の信用レベルを審査しているのだろうか。その答えはスマホなどITデバイスの中にある。

 新しい金融サービス事業者は、スマホのアプリを使って利用者に必要最低限の情報を入力させる。その後、スマホの利用履歴など個人情報を収集し、最終的な融資の可否や金額を判断しているのだ。例えば、深夜割引の時間帯に多くの通話を行う利用者は、信用力が高く返済不能になるリスクが少ないと判断される。一方、メールの受信より送信が多い人やスマホのバッテリーの消費が早い人は、信用力が低いと判断されるという。

 スマホの利用履歴は単なるデータの集合体でしかないが、ここに人工知能の技術を応用することで、既存の金融機関を上回る信用情報に変化させることができる。

金融機関が蓄積してきた融資ノウハウが吹き飛ぶ

 米グーグルが開発するスマホ向け基本ソフト(OS)の最新バージョンであるアンドロイド6には、ナウオンタップと呼ばれる機能が搭載されている。利用者がホーム画面を長押しすると、電子メールの内容やWebサイト、聞いている音楽などをたちどころに分析し、関連性の高い情報を表示するという仕組みのなのだが、要するに、利用者がどんな人物で、何を考え、どう行動しているのかを把握する機能ということである。こうした技術を総動員すれば、既存の金融機関が何十年もかけて蓄積してきた融資ノウハウなど一気に吹き飛んでしまうかもしれない。

 今のところ新サービスは小口融資業務に限定されており、資金を集めて提供するという機能については引き続き銀行に優位性があるようにも思える。だがネット仲介サービスの「中抜き」はこうした分野にも及ぶ。ネットを使って資金を融資したい個人を募ることが理論的には可能だからである。

 すでに米国では、資金を貸したい人と借りたい人をネットで仲介するレンディング・クラブという会社がサービスを行っており、同社はニューヨーク証券取引所に株式を上場している。ネットを使って資金を小口で集め、ネット上で融資を行えば、銀行ができることは資金の決済しかなくなってしまう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story