コラム

日本がいま必要な政官界の「大掃除」とは?

2023年01月14日(土)14時00分

日本は急速な近代化の道を歩んだ(写真は明治時代の製糸工場) PICTURES FROM HISTORYーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

<日本経済の稼ぐ力はそれ程、問題ではなく、改革が必要なのは政官界だ>

今年の予想を書こうと思い、100年前にあったことを調べた。すると、ドイツでのハイパーインフレ、アメリカの現職大統領の急死と副大統領の昇任、そして関東大震災など、今でも起こりそうなこと、起こってほしくないことがごろごろしている。でも、そうしたことを書いても面白くない。ここは一つ「近代工業文明の転換期」という、現代世界の大きな底流を考えてみよう。

19世紀の産業革命が広汎な中産階級を生み、それをベースに国民全員の参加を建前とした現代の民主主義が成立しておよそ100年。何百万、何千万、あるいは何億もの人間が参加して物事を決めるなど不可能と思うのだが、案の定、現在の民主主義は目詰まりが激しい。大掃除が必要だ。

ロシアのような、いまだに近代以前の国は語るまでもないが、先進国はほぼいずれも、これまでの民主主義を支えた工業が海外に流出あるいは自動化で雇用を減らしているなか、どうやって格差の小さな比較的高水準の社会を維持していくのか、という共通の課題を抱える。それは高踏的な文明論とか、自分に都合のいい配分を実現するために考え出した「理論」をぶつけ合って解決できる問題ではなく、できるだけ多数の人間がまともな所得を得られるようにするという実利的な問題に帰結する。

経済よりむしろ政治家と官僚

では、日本の経済はどうか? 日本のGDPはドルベースでは中国の30%弱になってしまったが、民間消費市場の規模では中国の約45%で、これは大きな存在感を持つ。日本の企業と個人の多くは、この膨大な国内市場を相手にしているだけで「食っていける」のだ。

ただ、資源などを輸入するためのカネ=外貨は輸出、あるいは海外投資の収益で稼がねばならない。この輸出のタネも日本は多数持っている。オーディオ・ビジュアル製品の輸出は駄目になったが、日本の優れた部品を使って自社製品を作っている企業は世界に多い。部品によっては、ソニーや村田製作所など日本企業が世界市場の過半を制しているものもあり、こうした「電子製品」の輸出額約11兆円は、かつてのオーディオ・ビジュアル製品の輸出額に匹敵している。ダイキンのヒートポンプ使用のエアコンなど、日本企業が優位を持つ製品も次々に生まれている。

日本は半導体生産で世界に落伍したと言われるが、それは携帯やパソコン向けの微細・超小型製品の話。自動車などで使うパワー半導体は健在だし、半導体素材では、三菱ケミカル、信越化学、SUMCOといった日本企業が今でも世界市場の過半を押さえ、半導体製造用機械でも、東京エレクトロンなどが世界市場で躍進している。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story