コラム

北朝鮮のミサイルは「Jアラート」では防げない

2022年10月14日(金)17時00分

Jアラートは練りに練られた立派な警報システムだが…… AP/AFLO

<「ミサイルを撃っても怖くない」と北朝鮮に思わせる、日本の防衛態勢を変えなければならない>

北朝鮮がかんしゃくを起こしたかのように、ミサイルを撃ち続けている。すると日本で「Jアラート」が鳴る。「北朝鮮がミサイルを発射したので、屋内か地下に退避」しろということだ。10月4日朝はそれで新幹線も止まった。テレビはどこもこのニュースばかり。

Jアラートは日本語で言うと、「全国瞬時警報システム」。2007年、国民保護法に基づいて立ち上げられた体制だ。緊急情報は内閣官房に報告され、内閣官房は総務省に指示。消防庁が危険地域の自治体の通報メカニズムを始動させる。緊急事態はさまざまに分類され、それぞれにふさわしい内容のJアラートが、ほとんど自動的に出される体制になっている。

立派な、練りに練られた体制だ。でも、近隣国からミサイルが飛んでくるときには間に合わない。そしてそれが核ミサイルだったら、退避のしようもない。それでも警報を出すというのは、「政府はなにをやっていた!」と後で非難されないための責任逃れになってしまう。

そしてこの退避勧告は強制力を持っていない。強制ではないから、勧告の結果起きたことに、政府は必ずしも法的責任を負わない。例えば、地下への退避ということで地下鉄の入り口に群衆が殺到し、誰かが圧死した場合、その責任は誰が取り、遺族への補償をどこが出してくれるのか? 「自己責任で退避してください」ということなのだ。

新型コロナについてもそうだが、市民全体にとっての死活問題に、お願いベースでしか対処できない、だから政府の補償義務も生じない、というジレンマを何とか整理しておかないといけない。

ミサイル演習で威嚇する米韓

しかしそれ以前にまず、「日本めがけてミサイルを撃っても怖くない」と北朝鮮などに思わせている、今の防衛態勢を改善しないといけない。つまり、日本に仕掛ける気を萎えさせる、抑止能力を持つことが必要なのだ。

ミサイル発射をリアルタイムで把握できる早期警戒衛星を配備し、ミサイルが日本やグアムに向かっていると判断したら、宇宙から撃破できるレーザーなどの装備を開発する。この実現には時間がかかるので、日本も中距離ミサイル(核弾頭でなくていい)を配備する。本土上の配備は難しいだろうから、護衛艦「いずも」「かが」に載せるステルス戦闘機F35に搭載しておくか、これを発射できる潜水艦を建造する......。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story