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パレスチナ問題の特殊性 中東全体の危機へと広がり得る理由
「17歳の息子アフマドが、抗議デモで頭を撃たれた」
UNRWAは2018年10月と11月に負傷した子供や家族にインタビューをしたという。報告書では次のようなインタビューの内容が掲載されている。
タリク君(13歳)の話。
「僕は抗議デモの初日に負傷した。参加することは親には言わずに、好奇心からデモに向かう車に飛び乗った。僕はデモの時、分離壁から100メートルほどのところに立って、見ていた。手には何も持っていなかった。その時、ふくらはぎを撃たれて、病院に運ばれた。病院に13日間入院し、傷が治るまで学校は3カ月休んだ」
タリク君の話の後に、次のような担当者の補足がある。
「タリクは5回の手術を受け、8カ月間のリハビリ治療をしてやっと松葉づえを使わないで歩くことができるようになったが、歩く時も足を引きずり、昔のように走ったり、サッカーをしたりすることはできなくなった。彼はくりかえし悪夢に悩まされ、学校でも勉強に集中することが難しくなり、黙り気味で、引っ込み思案になった。UNRWAは彼が自身の障害に適応でき、学校に慣れるように支援することを試みている」
また、息子が抗議デモに参加して大けがした母親の話もある。
「私は6人の子供の母親です。一番年下の息子アフマドは17歳ですが、抗議デモで頭を撃たれました。それですべてが変わってしまいました。家庭の幸せはなくなりました。息子の怪我は重傷で、脳が頭蓋骨の外に出ていました。幸いなことに医師が息子の命を救ってくれましたが、息子は20日間、集中治療室にいて、2カ月間、特別のリハビリ施設で過ごしました。
アフマドは精神的には退行して、幼児のようになってしまいました。服を着るのも、食事も、排せつも、すべて私と夫が世話をしなければならなくなり、私は片時も息子を一人にすることができません。息子は携帯電話を使ったり、テレビを見たりして、楽しそうですが、私の生活は変わってしまいました。親戚を訪ねることもなくなり、息子が人混みを怖がるので、どこにも行くことができません。私は疲弊して、ストレスを感じています。この2~3カ月の間に、20歳も年をとったような気がします。夜、眠ることもできませんし、横になると、胸が苦しくなります」
負傷者のうち7000人が実弾による負傷であり、その中には、かなりの確率で生涯にわたって障害が残った者がいる。ガザのパレスチナ社会に将来、深刻な影響を残しそうだ。
報告書には、「事態は国際社会によって全く過小評価されている。わずか10日間のほとんど平和的なデモでの負傷者は、14年に50日間にわたったイスラエルによるガザ攻撃の時よりも数が多い。(世界は)もっとしっかりとした対応をすべきだ」というクレヘンビュールUNRWA事務局長の言葉が掲載されている。
ガザで若者たちが死傷している間に、湾岸諸国がイスラエルに接近
「難民の帰還」デモが続いているガザは、2007年にイスラム組織ハマスが支配下に置いて以来、10年以上にわたって、イスラエルによる経済封鎖の下に置かれている。
360平方キロの土地に約200万人が住むガザの失業率は52%(18年)。自治政府や警察が最大の就職先であり、民間経済はほとんど破綻している。人口中央値が17歳代で、25歳未満の人口が66%と、全体の3分の2を占める。失業率の高さは、そのまま若者たちの苦難となる。
イスラエル軍は非情に撃ってくることを知りながら、若者たちがデモに参加するのは、失業や貧困、閉塞感などの状況に対する絶望とやり場のない怒りを示していると言えるだろう。ガザを追い続けるジャーナリスト、土井敏邦氏は「若者に広がる『殉教』という名の自殺」として、デモの背景にあるガザ内部の現状を報告している。
圧倒的な軍事力を持つイスラエル軍とパレスチナの若者たちが対峙する救いのない構図は、1987年に始まった第1次インティファーダや、2000年に始まった第2次インティファーダとも通じる。このような状況で、ネタニヤフ首相はトランプ大統領の後ろ盾を得て、ヨルダン川西岸の入植地の併合を言い出しているのである。
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