コラム

トランプ政権がパレスチナ難民支援を停止した時、40カ国が立ち上がった

2018年12月13日(木)11時03分

「行き過ぎた政治化」という言葉には、UNRWAへの支援停止のことだけでなく、トランプ大統領がパレスチナ問題に絡んで行ったエルサレムの首都認定や米国大使館のエルサレム移転などの政治的な動きも含まれるだろう。

5月にイスラエルの米大使館がエルサレムに移転した後、ガザでは大規模なデモが始まり、金曜日ごとのデモは今も続いている。「緊急事態の対応はなお続いている。ガザではこれまでに数千人が負傷し、足を切断するなど重傷を負ったために生涯にわたる障害を抱えることになった者も多い」と語る。

UNRWAは1949年に国連総会によって設立が決まり、50年から活動を開始した。クレヘンビュール事務局長は「子供たちの教育は最重要の課題だが、同時に高齢者の問題にも対応しなければならず、それに加えて、ガザの抗議デモや内戦が続くシリアでは緊急援助をしなければならない」と、幅広いニーズがあることを強調する。

しかし、イスラエルはUNRWAに対して「難民問題を永続化している」と存在自体を批判する。パレスチナ難民はアラブ諸国が受け入れることで解決すべきだとの立場である。トランプ大統領は歴代の米政権の中でも極端にイスラエル寄りの立場をとっており、UNRWAへの支援停止の決定の背景にも、イスラエルと同様の主張がある。

クレヘンビュール事務局長は「1949年にUNRWAの創設が決まった時、UNRWAは短期間の活動として想定されていた。パレスチナ問題が政治的に解決されれば、UNRWAは必要でなくなるはずだった。しかし、関係当事者と国際社会がパレスチナ問題に政治的な解決をもたらすことができないために、UNRWAも活動を続けてきた。政治の失敗が根本的な問題だというのは明らかである」と反論する。

パレスチナ問題は混迷が続くが、クレヘンビュール事務局長はUNRWAの将来についてどう見ているのだろうか。

「(90年代に)オスロ合意が協議されていた時、もしパレスチナ独立国家が実現したら、UNRWAの教育事業はパレスチナ政府に移管されるべきだという議論があった。それは理にかなったことであり、UNRWAの学校や医療センターや経験のあるスタッフを自治政府に移管すれば、パレスチナ国家にとっても非常に有効である」と語った上で、こう締めくくった。

「いまの現実はパレスチナ独立国家の実現には程遠い状況であるが、我々はあと30年も40年もUNRWAが活動し続けることを想定しているわけではない。我々はパレスチナ国家が実現して、事業を移管することが最良の想定だと考えている」

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日米首脳が電話会談、日中関係の悪化後初めて 高市氏

ワールド

パレスチナ、過去最悪の経済崩壊 22年分の発展が帳

ワールド

中国の新規石炭火力許可、25年は4年ぶり低水準に 

ワールド

ウクライナ首都に無人機・ミサイル攻撃、6人死亡 エ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story