コラム

エルサレム移転を前に報じられる驚愕「トランプ和平案」の中身

2018年03月19日(月)11時22分

トランプ大統領のほうは1月の初めに、「パレスチナ側が和平のテーブルに着くつもりがないなら、米国のパレスチナ支援を打ち切る」とツイッターで述べ、実際に米国は約500万人のパレスチナ難民を支援する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金の1回目の支払いである1億2500万ドル(約137億円)のうち、半分の6000万ドルだけを支払い、残りの支払いはUNRWAの対応を見ながら「検討する」とした。

アッバス氏に政治的な圧力をかけるために、非政治的なUNRWAの難民支援を打ち切ると脅すのは全く筋違いである。1月下旬に来日したピエール・クレヘンビュールUNRWA事務局長に都内のホテルでインタビューした時、事務局長はUNRWAが運営する学校には50万人の子供たちが通っているとして、「難民への支援を打ち切れば、中東への危機をもたらす要因となる」と警告した。

教育が難民コミュニティーの秩序を保ってきたが

私はこの3年間、1年に2カ月ほど、レバノンはベイルートのパレスチナ難民キャンプで取材をしているが、7年目となるシリア内戦の影はパレスチナ人たちにも深刻な影響を与えている。シリア難民がレバノンにも押し寄せ、パレスチナ人の仕事を奪い、ただでさえ高い失業率を押し上げている。

そのような状況下でも、パレスチナ難民キャンプがコミュニティーとしての秩序を保っている理由の一つは、UNRWAが難民の子供たちの教育を維持しているためであろう。

現在、パレスチナ難民は500万人を超え、シリア内戦によるシリア難民とほぼ同じ規模である。シリア難民問題が、教育を受けていない子供の増加、欧州への密航者の増加など様々な問題を生み出し、中東と世界の危機の要因になりかねないと懸念されている。そのような時に、パレスチナ難民の支援を打ち切るという米国の動きは、わざわざ世界の危機を増幅させる行動としか思えない。

5月15日の第1次中東戦争70年まであと2カ月となった。パレスチナ問題は20世紀の最悪の負の遺産である。この70年間延々と続いてきた中東の紛争の中核と言われてきた。

エルサレムの認定をめぐるトランプ大統領の前のめりの動きは、それまでに公表されるかもしれない和平案と合わせて、イスラエルの「建国70年」へのお祝いのつもりかもしれない。

しかし、それはパレスチナ人とアラブ諸国にとっては「ナクバ(大惨事)70年」でもある。その認識がないまま動けば、70年を起点として新たな中東の混乱が始まることになりかねない。

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プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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