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トランプのエルサレム認定 「次」に起こる危機とサウジの影
パレスチナを散り散りに分断した「国」にする和平案
トランプ大統領が語る「恒久的和平」は、これまでの和平プロセスの枠組みを根底から覆すことになる。
これまで「恒久的な和平」とは国連安保理決議242号に基づく「土地と和平の交換」の原則に基づく占領の終結であり、国連総会決議194号に基づく難民問題の解決しかないと理解されてきた。和平交渉によって「紛争終結」を宣言できるのはパレスチナ側であり、パレスチナ側が最終合意を受け入れたときに初めて紛争は終わりとなる。
ところが、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定しながら「和平」を求めることは、占領の終結や難民問題の帰還という国連決議に基づく枠組みから離れることを意味する。力づくでパレスチナを屈服させることで紛争を終結させようというのだろうか。エルサレム問題での新たな動きと並行して、トランプ大統領が近く中東和平提案を打ち出すという断片的な話が様々にニュースとして出ている。
ロイター通信などがパレスチナ自治政府筋の情報として伝えるところでは、トランプ大統領は今年前半にも和平プランを提示するとして、女婿でユダヤ教徒のクシュナー大統領上級顧問が和平案についてサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の支持を取り付けるよう動いているという。
ムハンマド皇太子はアッバス自治政府議長をサウジに招いて、米国の和平案を受け入れるよう求めたともいわれる。その和平案については、入植地の解体はなく、現在、イスラエル軍が全面的に支配しているヨルダン川西岸の「C地区」と呼ばれる区域の大部分がイスラエル側に編入されるという内容で、さらに難民の帰還もないという。
C地区はヨルダン川西岸の61%を占める。すべてのユダヤ人入植地はC地区にある。米国の和平案でイスラエル側に編入されるC地区の割合については、様々な報道があり、7割から9割と幅がある。
これは入植地を含むC地区の大部分がイスラエル側に奪われることを意味する。残されたパレスチナ自治区は西岸の半分程度の面積で、小さな島が集まったように散り散りに分断されてしまい、とても「国」とは言えない状況となる。
サウジがパレスチナやレバノンに圧力をかける理由
難民の問題では、アッバス議長はレバノンにいるパレスチナ難民にレバノンの市民権を与える代わりにイスラエルへの帰還を放棄するという案をサウジアラビアから示されたという話を最近耳にした。
事実であれば、イスラエルの主張そのままに難民の帰還権を否定した形での「最終解決」がレバノンとパレスチナに押し付けられることになる。
レバノンのハリリ首相は昨年11月初めにサウジを訪れて、突然、辞任を発表した。同じころアッバス議長もサウジを訪れ、ムハンマド皇太子と会見し、米国の和平案を受け入れるよう求められたというニュースが出た。サウジは米和平提案での難民問題の「最終解決」について両首脳に働きかけたのだろうか。
サウジでは11月にムハンマド皇太子が主導する腐敗追放委員会が11人の有力王族を含む約50人を逮捕した。
同皇太子は実父のサルマン国王が2015年1月に即位した後、国防相兼王宮府長官に抜擢された。同4月には副皇太子に任命された。さらに2017年6月にムハンマド・ビン・ナイフ皇太子が解任され、代わって皇太子に任命された。
現在32歳であるが、今年、国王に即位するのではないかとの推測もあり、王族や現職閣僚・旧閣僚、ビジネスマンらを含む有力者を「腐敗追放」として一斉拘束に出たことは、反対派を排除して、権力を固める意図があるとみられる。
若いムハンマド皇太子が権力固めをしようとすれば、米国の支持を得ることは必須となる。特に同皇太子は対イラン強硬姿勢という点で、トランプ大統領と同じ立場であり、イスラエルとの接近も伝えられる。トランプ大統領の支持を得る代わりに同大統領が進める和平案の実現のためにパレスチナやレバノンに圧力をかけることはありうるだろう。
今回、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都に認定した決定は、今後提示される和平案の前触れということになるだろう。和平案として様々に出ている断片的な情報をつなぎ合わせても、パレスチナ人にとっては最悪の提案になりそうな予感しか出てこない。
中東にとっては新たな危機の始まりの年となりそうである。
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