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トランプの「大使館移転」が新たな中東危機を呼ぶ?【展望・後編】
軍事力によって危機を抑え込む場当たり的な対応
97年-98年に中東で政府批判が抑え込まれてしまったが、2000年代に新たな危機が噴き出した。2001年、9.11米同時多発テロ、2003年、イラク戦争と前半は大荒れとなった。イラクでも戦後にスンニ派地域で対米攻撃が激化し、さらに2006年にシーア派・スンニ派の宗派抗争が激化した。しかし、この危機も2007年から08年にかけて抑え込まれる。パレスチナのインティファーダはイスラエルのシャロン首相の軍事強硬策によって06年ごろまでに抑え込まれた。イラクでも米国が07年に駐留部隊を増強した上でスンニ派部族を取り込み、「イラク・イスラム国」と対抗した。イラク情勢は「下火」に向かった。
2011年の「アラブの春」後の動きは前編で扱った。この後編では90年代と2000年代を振り返ってみたが、中東では10年ごとに噴き出す危機に対して、中東の政府も欧米も、いかに軍事力によって危機を抑え込むという場当たり的な対応に終始してきたかが分かるだろう。
中東危機が「下火」になったといっても、中東の矛盾は何も解決したわけではない。2、3年の表面的な"平穏"の後、また危機が噴き出す。90年代にアラブ諸国の強硬政策でイスラム過激派が抑え込まれると、「近い敵」から「遠い敵」への転換を経て、2001年の9.11米同時多発テロへとつながる。2000年代ではイラク戦争後の米軍によるイラク占領の衝撃は、アラブ世界の民衆に反米とともに、反体制という怒りを募らせ、2011年の「アラブの春」として噴き出した。若者たちがデモで「カラマ(尊厳、名誉)」を掲げたのは、そんな心情を映している。
サイクス=ピコ協定など中東が抱える3つの矛盾
中東が抱えている矛盾は、①英国、フランス、ロシアが結んだサイクス=ピコ協定に代表される欧州列強による国境線の押しつけ、②西側世界のユダヤ人問題を中東に押し付けたイスラエル建国とパレスチナ問題の始まり、③欧米による中東の石油支配と軍事介入――などを主な要因とする。
このような困難な政治的条件のもとで、21世紀においてさえ、中東では強権独裁体制や絶対君主制が幅をきかせている。政治的な自由や民主主義、人権は後回しにされて、秩序や安定が重視されるためである。それに対して若者たちが「ノー」を叫んで反乱を起こしたのが「アラブの春」である。中東・北アフリカ地域の人口中央値は23歳という若い人口構成で、人口の半分以上を若者が占めており、若者が動いたことで、政治は動くことになった。
前編で見たように、「アラブの春」で噴き出し、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンで強権体制を倒した若者パワーは、大規模なデモ、ムスリム同胞団による選挙勝利、シリアでの武装闘争、「イスラム国」への流入などの形を取ってきた。それに対して、抑え込む側は、エジプト軍のクーデター、シリアでの武力制圧、「イスラム国」への有志連合の空爆、イラク軍によるモスル制圧、シリア政権軍とロシア軍によるアレッポ制圧という形で力を加えた。
2016年後半までに、力で抑え込まれたのは、エジプトの若者たちやムスリム同胞団、シリアの反政府勢力、イラクとシリアの「イスラム国」である。それらの勢力がある特定地域に限定されているなら、そのまま封じ込まれられてしまうだろう。しかし、「アラブの春」の若者たちは国を超えてデモを起こし、エジプトに限定されたものではない。ムスリム同胞団もエジプトだけではなく、アラブ諸国全域に同様の組織がある。「イスラム国」もまた中東、アフリカ、アジア、さらに欧米にも関連組織や支援者もいる。
ある地域で抑え込まれた矛盾は、その背景にある国を超えたつながりを通じて、別の場所で、別の形で噴き出すことになる。そのような「つながり」が生まれるのは中東・北アフリカの20カ国でイスラムという共通の宗教が支配的で、さらにうち18カ国はアラビア語を母国語とするアラブ諸国という地域としての同質性が非常に強いためでもある。
「アラブの春」で声を上げた若者たちの不満や怒りのもとになったのは「格差の広がり=不公正」「政権の腐敗」「強権による自由の封殺」である。それらの問題は、なんら解決されておらず、逆に強権支配は強まった。このような状況を考えれば、エジプトで軍が強権で反対の声を押さえ、シリアでアサド政権がアレッポを制圧して反体制勢力に攻勢をかけ、イラクで「イスラム国」の首都モスルへの掃討作戦が続くことで、危機を抑え込んだとしても、危機の元となる問題は解決していない。
力で抑えられた矛盾は、地下にたまったマグマのように、新たな噴き出し口を求めて、うごめくことになるだろう。私が2017年は「踊り場の年」と見るのは、しばらく足踏みをしても、中東の危機はまた新たな危機の階梯を上がることになると考えるからである。
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