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「テロとの戦い」を政治利用するエルドアンの剛腕
トルコ政権による「両面」強硬策
トルコはISとの戦いに積極的ではなかった。米国が率いる有志連合によるIS空爆には参加せず、IS掃討のために他国が国内の空軍基地を使用するのも認めなかった。そのためトルコは欧米からはISに甘いと見られていた。シリアと長い国境を接しているトルコがIS空爆に参加すれば、ISのテロの標的となることは見えており、トルコとしても慎重な姿勢をとらざるをえなかったということだろう。
さらに、米国がシリアのYPGを支援してISと戦わせるという戦略は、YPGをテロ組織と考えるトルコには受け入れることはできない。スルチでISによるテロが起きた時、クルド人の間には政権に対する批判が噴出した。政権がISを助けたという怒りの反応さえ出た。テロの2日後にトルコ南東部のシリア国境沿いで警察官2人が射殺され、PKKが「スルチの攻撃への報復」とする犯行声明を出した。
トルコはテロの後、米国に連絡し、有志連合のIS掃討作戦にトルコ国内の基地を利用することを認め、さらに自ら、シリアのIS支配地域への空爆を開始した。しかし、トルコのシリア領内への空爆はIS拠点だけでなく、PKKの拠点も含まれていた。
エルドアン政権はPKKとの停戦と米国・有志連合のIS掃討作戦への不参加という2つの政策を捨て、PKKに対しても、ISに対しても、「テロとの戦い」を強化する「両面」強硬策に打って出たのである。それがかえってPKKとISのテロ激化へとつながり、治安の悪化をもたらしたということだろう。10月の100人規模の死者を出したISによる大規模テロや、今年になってのクルド人過激派による大規模テロが続く事態に陥った。
やり直し総選挙では過半数を回復
エルドアン大統領にとっては、スルチでのISテロの影響が広がらないように、PKKとの停戦と、IS空爆から距離をとる対応策を継続するという選択肢もあったはずだ。そうしなかったのは、6月の総選挙での過半数割れという政権与党としての「敗北」を受けて、大胆な勝負に出たということだろう。
治安は目に見えて悪化したが、それは政治にどのように影響しただろうか。6月の総選挙で単独過半数を失ったエルドアン大統領が率いるAKPは、11月のやり直し総選挙で、議席を50議席以上増やして、過半数を回復した。当時の朝日新聞は「社会不安が高まる中、有権者は安定を求めた」と分析した。スルチのテロの後で、「テロとの戦い」を掲げて一気に強硬策をとった政権は、政治的には成功したということである。いかにも強気のエルドアン大統領らしい手法である。
エルドアン氏は2002年にAKPを率いて総選挙で勝利して以来、今年で15年目になるが、2011年の総選挙に勝利した後、3期に入ってから「権威主義化」「強権化」の批判を受けることになった。さらに2014年に大統領直接選挙で大統領に就任してからは、メディアや市民運動への弾圧など、さらにその傾向を強めている。
下町の伝統で育った「庶民宰相」だったが......
2012年にエルドアン氏について集中的に取材をしたことがある。彼が少年時代を過ごしたイスタンブールでも最も伝統的で庶民的な下町カセンパシャを訪ねて人々の話を聞いた。周りを威圧するような親分的なエルドアン流の振る舞いが出てくる土壌を実感することができた。エルドアン氏は、かつて中東を抑えたオスマン帝国の伝統を引き継ぐ軍、官僚、財閥というエリートから全く遠いところから、イスラム的な伝統を実現する政策を掲げ、「民意」を手にしてトップに上り詰めた。まさに「庶民宰相」である。
元側近やエコノミストに話を聞いた時、「エルドアンは最初、様々な意見をよく聞いて決断したが、3期以降、独断専行の傾向が強まった」という声があちこちで出た。昨年6月にAKPが過半数割れしたのは、大統領権限の強化を可能にする憲法改正を公約として掲げたためであり、強権化に国民の警戒が強まったからだと分析されていた。
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