コラム

部族社会に逆戻りするアラブ世界

2015年12月24日(木)10時56分

 一方、アルジャジーラの番組では、シリアの反体制派系の研究者アブデルナセル・アヤド氏が登場し、2011年に始まった「アラブの春」でのシリアでの反体制運動の始まりに、部族が重要な役割を演じたという見方を語った。「革命発祥の地」と呼ばれるシリア南部のダラアでは、同年3月に「民衆は体制の崩壊を求める」という落書きをした10代の少年たちが警察に拘束され、それが大規模な反政府デモにつながり、治安部隊がデモ隊に銃撃したことが、さらなるデモの拡大へとつながった。

 アヤド氏は「ダラアはシリアの中でも部族が強い地域であり、反政府運動が広がった時に、部族の連帯意識が果たした役割は大きかった」と語った。さらに、「反政府運動の動きが部族の影響力が強いシリア東部に広がった時、デモの実施と、その後の武装闘争の広がりにおいて、地域の部族が果たした役割は大きい。東部は早い時期に反体制派に解放された場所である」と付け加えた。

ISに忠誠を誓う部族の動画

 ISが今年5月にYouTubeで公開した動画では、モスルを州都とするニナワ州の部族がISに改めて忠誠を誓う会合の様子が映されている。アラブ風の頭巾をつけた部族長が次々と広いホールに入り、ISの幹部とみられる人間が部族の名前を読み上げる。部族長は「我々は信仰深い司令官であるアブバクル・バグダディ師に忠誠を誓い、従う」と、ISを率いるバグダディ師の名を唱える。さらに映像では、出席した部族長の次のようなコメントが次々と紹介される。

「抑圧と屈辱の時には、外に出て歩くのも安全ではなかった。いまは、誇りを持って外を歩くことができる。いま世界は信仰か不信仰かを選ばねばならない」
「彼ら(IS)がやってきて、我々をイスラムの下に解放した。我々は常に『アッラー以外に神はない』を唱えるISの旗の下にある」
「我々は困難な状況を経て、いまISと共にある。我々は共にシーア派とクルド兵と戦う」
「我々は神にかけて、バグダディ師に忠誠を誓う。我々はISの一部であり、それを誇りに思う」

 もちろん、部族もIS支配の下で従わねばならないのだろうが、力による支配は、サダム・フセイン政権であれ、米軍占領時代であれ、シーア派主導政権の時代であれ、変わらない構図である。ただし、サダム・フセイン時代にはスンニ派部族は優遇されていた。それが米軍占領下と、シーア派主導政権時代には、スンニ派部族は抑圧されていると感じていた。

部族の支持を得て地域を支配するIS

 ISは部族の支持を得ることで地域を支配する手法をとっている。忠誠を誓った部族の支配地域に、電気や水道などサービスの提供や、地域の道路整備なども行う。もちろん、ISに歯向かう部族には、残酷な報復が行われるが、それもフセイン旧政権時代と同じである。スンニ派部族にとってISはシーア派政権とクルド兵と対抗するには強い味方でもあり、部族長が「ISの下で安全と誇りを感じる」と語るのは、全くうそとも言えないだろう。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米税関当局、違法関税還付システムの大半完成 還付に

ワールド

トランプ氏、対イラン作戦2─3週間内に終結も 「間

ワールド

トランプ氏、郵便投票の規則厳格化へ大統領令に署名

ビジネス

北朝鮮と関係するハッカーが「裏方」ソフトに不正侵入
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 7
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 10
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story