コラム

「ブレグジットのせいでイギリス衰退」論にだまされるな

2023年03月01日(水)13時30分

その3、このような残留派の主張に異論が出た場合、彼らはお決まりの「反論」でかわそうとする。

「OK、ブレグジットだけが原因ではないかもしれないが、ブレグジットがなんの助けにもなっていないのは確かだ!」というわけだ。

当初はブレグジットとあまり関係のない、あるいは微妙な関係しかない問題でブレグジットを非難していたことで、「残留派の戦略集」の中ではブレグジットがいろいろな悪条件の中でも重要な要素であり続けることが見て取れる。残留派のお決まりの反論は、ブレグジットという「最大の原因から目を背けるな」だ。

その4、ネガティブなニュースのみ報じる。

僕が読んだこの記事は、イギリスは2023年、主要国で唯一マイナス成長に陥ると喧伝している。これは事実だし、報道するのももっともだ。とはいえ残留派は、今のイギリスの失業率がEU諸国の平均よりはるかに低く、EUの経済大国(ドイツやフランス、イタリア)と比べても低く抑えられていることや、ロンドン証券取引所グループのFTSEが2022年に世界の主要株式市場で唯一成長を記録したこと、などを同時に指摘しようとは決してしない。

僕はこうした事実がブレグジット大成功の「証し」だと言っているわけではない。残留派が自分たちに都合のいい「ファクト」だけをつまみ食いしていると言いたいだけだ。

その5、世論調査によればイギリスの多くの人々がブレグジットはうまくいっていないと感じている、というのを指摘するのは理にかなったことだ。でも残留派はそこから理論を飛躍させ、こうした「ブレグレット(ブレグジット後悔)」はすなわちEU再加盟を支持することである、と考える。

でも実際のところ人々は、歴史上の多くの出来事と同じく、「もう少しうまくいっていたらいいのに」と思っている、というほうが正確だ。

コロナ禍とロックダウンの影響は?

その6、自分の狙い通りの結果になるよう世論調査を操作する。

これは質問を工夫すれば簡単だ。例えば、インディペンデント紙はある世論調査を実施してその結果をこう報じた──「EU再加盟を問う新たな国民投票の実施をイギリス人の3分の2が支持」。だがご注意を。人々はEUに再加盟したいかどうかとは質問されておらず、新たな国民投票をすることを受け入れられるか、と聞かれただけだ。何か重要な問題について、再度民主的に検討する権利をあなたは放棄したいですか、と問われたら人はどう答えるだろうか。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ首相、カンボジアとの戦闘継続を表明

ワールド

ベラルーシ、平和賞受賞者や邦人ら123人釈放 米が

ワールド

アングル:ブラジルのコーヒー農家、気候変動でロブス

ワールド

アングル:ファッション業界に巣食う中国犯罪組織が抗
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story