コラム

イギリスが目を背ける移民とイスラム過激派の「不都合な真実」

2021年10月30日(土)17時00分

ロンドンで行われたエイメスの追悼集会(10月18日) HESTHER NGーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<人種差別と言われかねないから誰も口にしないが、イギリスは明らかに移民の問題を抱えている>

僕の地元の英イングランド東部エセックス州で10月15日、デービッド・エイメス下院議員が刺殺された事件は、イギリス全土に衝撃と悲しみをもたらした。だがその後、殺人とテロの容疑で逮捕された男がソマリア系英国人だと分かったことには、さほど驚きの声は上がらなかった。

イギリスには、誰の目にも明らかなパターンがある。戦争で荒廃した国やイスラム諸国から来た移民が、その人口比に見合わずあまりに多くのテロ攻撃に関与しているということだ。

過去20年に起こった数々の事件はどれも重大で、ここではほんの端的な概要を挙げることしかできないが、それぞれの事件の影には深い悲劇があった。2017年のマンチェスター・アリーナ爆破事件(10人の子供を含む22人の罪なき人々が犠牲になった)。2020年に起こった英南部レディングの公園での刺殺事件(3人が死亡)。2017年のロンドンの地下鉄爆破事件では、爆破装置が全てきちんと作動していたら数十人が死亡する可能性があった(不十分だったため「たった30人の負傷者」が出ただけだった)。

2017年にロンドン橋で起こった車の暴走と刺殺事件(8人が死亡、48人が負傷)、2019年に同じくロンドン橋近くで起こったナイフでの襲撃事件(2人が死亡、3人が負傷)。2017年の英国会議事堂前での車の暴走事件では警察官1人を含む5人が死亡。2013年にはロンドンで若き英軍兵士が頭部を切断される事件が起きた。そして、「イギリスの9.11」とも言われ、52人が死亡、数百人が負傷した2005年7月7日のロンドン同時爆破テロ。

これらのほかにも、おそらくイギリス国外では報道されていない「地味な」襲撃事件がいくつもある。たとえばロンドン南部のストレタムでの刃物襲撃事件は、負傷者が出たものの幸い死者は(射殺された襲撃犯以外は)いなかった。

推定900人に上る英国人が外国に渡って過激派組織「イスラム国」(IS)に参加したとみられており(中には英国なまりのため「ビートルズ」のあだ名で呼ばれていた者も)、その中には英当局に気付かれることなく既にイギリスに帰国している者もいる。

イギリスには明らかに問題があり、僕たちには対処法が分からない。エイメス議員の殺害後に公の場で交わされた議論は、いかにして「政治家の安全を強化するか」や、国全体で「政治的議論をトーンダウンさせるか」などだった。まるでブレグジットをめぐる種々の分断までがイスラム過激派テロの原因になったかのような論調だ。

僕たちは問題の核心を直視したくないがために、集団的否定の状態に陥っている。核心とは、イギリスの市民や政治家を攻撃しようとする、少数だが確実にいる過激主義者たちがこの国に流入して、この国で育まれているという現実だ。イギリスが移民の問題を抱えていると公然と示唆すること、さらにはある特定の移民を名指しすることは、人種差別と取られかねないからタブーとなっている。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送公債依存度24.2%に低下、責任財政に「腐心」

ワールド

米国のベネズエラ封鎖は「海賊行為」、ロシアが批判

ワールド

26年度防衛予算案を決定、初の9兆円台 無人機を数

ワールド

米、ナイジェリアでイスラム過激派空爆 「キリスト教
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story