コラム

サッカー界は「言論の自由」を抑圧する国に手を貸している

2021年10月12日(火)06時20分
ニューカッスルのファンたち

イングランド・プレミアリーグのニューカッスル・ユナイテッドFCがサウジアラビアの政府系ファンドに買収され、喜ぶファンたち(10月7日) Action Images via Reuters/Lee Smith

<体制批判で言論の自由を守り続けたジャーナリストのノーベル平和賞がニュースになるのと同時に、ジャーナリスト殺害で悪名高きサウジアラビアによる英プレミアリーグのクラブ買収が歓喜とともに報道されるイギリスの耐え難き矛盾>

人生は皮肉になることもある。いつも「笑える感じに」皮肉になるとは限らない。この24時間というもの、英BBCニュースは2つのニュースを行ったり来たりして絶えず放送している。

1つは、専制主義的体制の下でジャーナリストたちが抑圧され、殺害すらされている国において言論の自由を守り続けたとして、2人のジャーナリスト――フィリピンのマリア・レッサとロシアのドミトリー・ムラートフが、ノーベル平和賞に選ばれたというニュース。

もう1つは、イングランド・プレミアリーグのニューカッスル・ユナイテッドFCがサウジアラビアの政府系ファンドに買収されたというニュースだ。

サウジアラビア当局がトルコ・イスタンブールの領事館で2018年にサウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギを殺害した事件があったにもかかわらず、だ。ニューカッスルのファンたちは、サウジアラビアという新オーナーを獲得できたことを祝い、スタジアム周辺で歓喜に沸いて踊った。

だから、もしも「西側諸国」が人権や言論の自由を重視していることをアピールしたいのだとしたら、今回の出来事は「矛盾したメッセージ」になりかねない。言論の自由を抑圧する体制を非難しながら、カネさえ持っていれば彼らと取引するというのだから。

サッカーは、「道徳を超越する」特殊なケースだ。

カタールが移民労働者を搾取しているからワールドカップ・カタール大会への出場を拒否するなどと言い出すイングランドのサッカー選手など1人もいないし、イングランドサッカー協会(FA)がボイコットを主導することも決してない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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