コラム

世界初コロナワクチン接種イギリスの第1号女性に、イギリス人の本音は

2020年12月14日(月)13時21分

ワクチン分配の方法が、社会的公正さの意識の高まりに見合うものかどうかは今後、念入りに精査されることになる。

たとえ高額所得者やエリートスポーツ選手、政治家などのほうが経済に貢献しているとしても、国民保健サービス(NHS)スタッフや介護労働者、エッセンシャルワーカー(バス運転手や店員、警察官、教師など多くの人々に接する必要のある労働者)は、彼らよりもまず優先されなければならない。

ほとんどの人は第2陣の安価なワクチン待ち

僕たちは全員に同じく課されたものだからこそ、1度目と2度目のロックダウンで途方もない規制に耐えた(たとえリモートワークは最高と言う人もいれば最悪だと言う人がいるにしても)。

ほとんどの人々が今後数カ月、旅行も集まりもできないままでいる一方で、特権的な少数の人だけが「ワクチンを接種できたことによる自由」を与えられる、などと言う事態は僕たちは望んでいない。

自分よりも他の誰かのほうがワクチンの必要度は高いかもしれない、という理屈を、僕たちは受け入れられるようになる必要がある。

もちろん、ワクチン接種が最もリスクの高い人々をまず対象にしていることは理解できる。年齢や健康状態、さらには人種にもよる(黒人は同じような状況の白人に比べ、重症化しやすいようだ)。

人口密度の高い都市や親戚一同が一緒に住んでいるような地域(多くのイスラム教徒が暮らすレスターなど)が、田舎の町より先にワクチン接種を受けるのは理にかなっているだろう。でもかなりの田舎で貧困な地域で観光業に頼っているようなところ(コーンウォールなど)も検討に値する。

明らかに、この問題にはさまざまな要素はあるけれど「うれしい悩み」なのだ。

ファイザーのワクチンは素晴らしい科学的成果であり、イギリスは安全基準を下げるという妥協をすることなしに何とか一番乗りで承認にこぎつけたことで、見事な偉業を成し遂げた。とはいえこのワクチンは比較的高価で、もっと重要なのはマイナス70度で保存する必要があるため、分配に手間がかかる。

言い換えれば、このワクチンは(かけがえのない)限りある、ほとんど短期的な解決策であると言えそうだ。このファイザーのワクチンは今、最も必要としている人々のために使われるが、他のほとんどの人々はより安価で保存が簡単なオックスフォード大学のワクチンを待たなければならないだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米国非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story