コラム

イギリス分断を際立たせるコロナ第2波、当初の結束はどこへ?

2020年10月23日(金)17時30分

イングランド北部の、特に都市部でより急速に感染が拡大している(写真は10月21日、マンチェスターにて) PHIL NOBLE-REUTERS

<コロナ第2波に襲われるイギリスは、規制強化と緩和、度重なるルール変更で大混乱。貧しい地域は感染者増で規制が強化されますます困窮し、富める地域は規制緩和されるという現実が>

新型コロナウイルス危機が発生したころには、珍しく国中で結束の意識が高まっていた。僕たちは皆この危機の渦中にあり、困難な状況になりそうで、でも一緒に乗り越えるんだ、と。老いも若きも富める者も貧しい者も、北部の人も南部の人も。

だが、今やこの状況は6カ月以上に及び、この結束意識にひびが入っている。こうしたひびを埋めるべく「共通の敵」に対して立ち向かうというよりも、むしろ長期にわたるストレスが今や社会の断層線をあらわにしている。

イギリスは4つの異なる国で成り立っている。スコットランド、ウェールズ、北アイルランドはそれぞれ、権限移譲政府の統括の下、新型コロナウイルスに対処する当局がある。対するイングランドには権限移譲政府はなく、英中央政府によって統治される。

スコットランド政府は、スコットランド独立を支持するスコットランド民族党(SNP)が政権を握っている。彼らが主張する事柄は全て、コロナを食い止めようとの意図があるのだろうが、ついどうしても英中央政府と自らを区別しようとせずにはいられないし、完全なる独立国家政府に見せたがろうとしてしまう。彼らはさりげなく、あるいはあからさまに、ロンドンの英政府はコロナ危機を十分な深刻さで捉えておらず、だからこそ自分たちは英政府より早い段階で厳格な規制に踏み切ったのだとほのめかしてきた。そうした対応やはるかに小さい人口密度にもかかわらず、スコットランドの10万人当たりの「超過死亡」はイングランドとほぼ変わらない。

ウェールズ政府は労働党が率いる。これはつまり、ウェールズ政府は統一の維持を望む「ユニオニスト」であり、本質的には英中央政府とたいして対立していないということになる。だが同時に、労働党は英政権を握る保守党に対抗する最大野党でもあり、イデオロギー的な違いが政策を左右する要因になる。

スコットランドのように、ウェールズもより厳格な規制を選んできた。最近、ウェールズはイングランドの感染率の最も高い一部地域からの訪問を禁止すると発表した。不正確なたとえだが、日本でいえば四国が神戸や大阪からの来訪を禁じるようなものかもしれない(でも東京からは訪問できる、という感じだ)。

今や、イングランド内でも分断が見られる。コロナはイングランド北部の、特に都市部でより急速に拡大しており、リスクの最も高い地域では規制を強化して影響の少ない地域では緩和することが計画されている。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story