コラム

イギリスに汚点を残した「ウィンドラッシュ」問題

2019年11月22日(金)16時45分

ウィンドラッシュ世代の移民の保護を求める人たちのデモ活動 Simon Sawson-REUTERS

<第2次大戦後の労働力不足を補うためイギリスがかつて招き入れ、何十年もこの国に貢献してきたカリブ海諸国からの移民を、手のひら返しで冷遇した英政府の恥ずべき政策とは>

ここのところ、僕はイギリスを擁護するような文を何度も書いた。ブレグジットをめぐってこの国が不当に叩かれているように感じて、違う視点を提供したかったのだ。でも、僕を知っている人ならみんな言うだろうが、実際のところ僕はしょっちゅう、イギリスが落ちぶれつつある(最初からそんなに偉大な国だったわけではないけれど)、と愚痴っている。この点において、僕はかなり典型的なイギリス人だ。

いわゆる「ウィンドラッシュ・スキャンダル」は特に、僕の中でイギリスへの信頼を傷つけた。僕は英政府が完璧だと思ったことなど一度もなかったが、イギリス人の多くは、あまりに際立ったこの事態に心底衝撃を受けた。「ウィンドラッシュ世代」という言葉は、1948~1973年にカリブ海諸国の旧大英帝国植民地や英連邦からイギリスにやって来た、およそ50万人の移民たちを指す。彼らは第2次大戦後のイギリスの労働力不足を補うため、英政府の招きで合法的に入国した(その初期の多くが「エンパイア・ウィンドラッシュ号」という安い旅客船で渡って来たため、ウィンドラッシュ世代と呼ばれるようになった)。

ところが、2010年に英政府は不法移民に対する「敵対環境」政策を導入し、イギリスにいる人々は法的な滞在資格や就労資格があることを証明しなければならなくなった。問題は、ウィンドラッシュ移民たちは、合法的に入国した証拠がなかったことだ。彼らは書類もほとんどないような時代にやって来て、たとえば1960年代にイギリスの学校に通っていた、というようなことも証明できなかった。

結果として、人生の大半をイギリスで送ってきた人々が突然、国外退去のリスクにさらされることになったのだ。中には仕事を失う人々もいた(イギリスでの就労資格を証明できない者は雇ってはならないと、雇用主が圧力を掛けられたからだ)。何十年も務めてきた職場から解雇されるケースもあった。

社会保障を拒否され、国民保健サービス(NHS)を使えなくなる人々もいた。そのせいで彼らがどんなに大変な思いをしたかと考えるとぞっとする。幸い、実際に国外追放された人の数は比較的少なかった(把握されているケースでは100人以下)。でも、これが現実に起こっていたこと自体が衝撃的だ。母国を訪れた後にイギリスへの再入国を許されず、イギリスにいる家族と離れ離れにされた人々もいる。馬鹿げたことに、彼らがイギリスに合法的に入国した証拠がない理由の1つは、ウィンドラッシュ号で入国した記録(確かに存在し、明らかな証明書となり得た一連の記録)が、数年前に不要と判断されて、当時の政権によって破棄されていたからなのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゴールドマン、26年第4四半期の原油価格見通しを引

ワールド

ラガルドECB総裁、BISから14万ユーロ報酬 内

ワールド

イスラエルの中東地域所有権巡る米大使発言、中東・イ

ワールド

違法判決の米関税、24日に徴収停止 米税関当局発表
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 2
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 3
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中小企業の「静かな抵抗」
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 6
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 7
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 8
    「高市トレード」に「トランプ関税」......相場が荒…
  • 9
    ペットとの「別れの時」をどう見極めるべきか...獣医…
  • 10
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 10
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story