コラム

「EU残留」死守へ、なりふり構わぬ運動開始

2016年04月19日(火)18時30分

先週始まった英政府の運動はEU離脱の「恐怖」を国民に植え付けようというもの? Dan Kitwood-REUTERS

 ニュースを聞いて驚いているところだ。僕がこれを書いている今日、4月15日は、イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票に向けた正式な運動の開始日らしい。

 もちろん僕は、6月23日に国民投票が迫っているのは分かっている。この国民投票は、昨年の総選挙で保守党が勝利したことに伴う何より重要な「結果」だ。以来、このことが人々の意識から消える日はほとんどないくらいだった。

 それなのに、まだ運動が始まっていなかったとは思いもよらなかった。ここ数カ月は、ニュースで大きく取り上げられない日は1日たりともなかったというのに。

 先週、僕はイギリス政府から送付された(つまり納税者のカネで作られた)パンフレットを受け取った。「EU残留に投票がイチバン、政府がそんなふうに考えるわけ」という、ちょっと出来の悪いタイトルがついている。

【参考記事】EU離脱、ブレグジットの次はフレグジットにスウェグジット?

 このパンフレットは、今後の運動の方向性を示しているようだ。政界は全精力を結集させて、「残留」票の確保に努めるつもりのようだ。たとえそれが、有権者の血税を使って、運動期間開始前に有権者に文書を送り、有権者を誘導する、などという禁じ手であろうと。

 政界とビジネス界には、現状維持を強く好む傾向がある。たとえばつい先日、野党・労働党の「異端児」ジェレミー・コービン党首がEU残留支持を表明したことからも、それが見てとれるだろう。彼はこれまで、声高に反EUを叫んできたはずだった。これはつまり、労働党が強固な「親EU派」であるために、党首である彼もそれに従わざるを得なかったということなのだろう。

 そもそもデービッド・キャメロン首相が昨年の総選挙を前に国民投票の実現を約束したのは、反EUを叫ぶイギリス独立党(UKIP)に票を奪われるのを阻止するためでしかなかった(国民投票を約束しなければ、おそらく保守党は過半数の議席を得られなかっただろう)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米CB景気先行指数、8月は予想上回る0.5%低下 

ワールド

イスラエル、レバノン南部のヒズボラ拠点を空爆

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story